1906年創業の「ヴァン クリーフ&アーペル」。その年に初めて販売したダイヤモンド作品は、ブリリアントカットのダイヤモンドがハート形にセッティングされたものでした。1921年に世界中で話題となった〝プリンス エドワード オブ ヨーク〟はネックレスにあしらわれた60カラットのペアシェイプ。ヴァン クリーフ&アーペルが入手してジュエリーにセットした初の著名なダイヤモンドでした。以来、メゾンは、各国の王侯貴族、セレブリティ、社交界から愛される存在となり、純粋にして完璧、永遠の象徴であるホワイトダイヤモンドは数々のヴァン クリーフ&アーペルのスタイルを輝かせてきました。「レジェンド オブ ダイヤモンド」の第2章、〝ホワイトダイヤモンド ヴァリエーション〟は、こうして脈々と受け継がれ豊かな発展を遂げてきた、ダイヤモンドに情熱を注ぐ者としてのメゾンのクリエイティビティへのオマージュ。伝統のスタイルを新たな解釈で進化させた82点の中から、代表的な作品をご紹介いたします。
©Van Cleef & Arpels SA 2021
アールデコという新しい表現が登場した1920年代にメゾンが制作したバンドースタイルのブレスレットからインスパイアされた逸品。ダイヤモンドをパヴェセッティングしたリボンモチーフを少しずつ重ねて配し、中央の高みに一輪の花が開くというグラフィカルで立体的なデザイン。あらゆるセッティング技法の粋がめくるめく光の美を奏でています。
「フロレゾン ドゥ ディアマン」ブレスレット(WG×ダイヤモンド)参考商品
©Van Cleef & Arpels SA 2021
人々が映画の世界に恋焦がれた1950年代。伝説の女優たちの香りたつ胸もとを彷彿させる、タイムレスな魅力を放つネックレス。幾何学的なデザインのセンターストーンは10.06ct、バランスが美しい"テニスコート"と呼ばれるエメラルドカットが施されたダイヤモンド。全体に多彩なカットとセッティングが駆使され、首に沿うラインはオープンワークを連結した構造で、軽く快適なつけ心地を叶えています。
「ファビュラス フィフティーズ」ネックレス(WG×ダイヤモンド)参考商品
1920年代のダンスホールに集う、チャールストンドレスをまとった淑女たちを彩った、流麗なネックレスから着想。フリンジ部分の取り外しなどでロングネックレスとして3通り、ショートネックレスとして3通り、ブレスレットとして2通りのつけ方で楽しむことができます。ペアシェイプ(10.32ct)、オーバルシェイプ(4.46ct)のダイヤモンドと、RGをアクセントとしてリズミカルに展開するシンメトリーのラインに魅了されます。
「ローリング トゥエンティーズ」ロングネックレス(WG×RG×ダイヤモンド)参考商品
355石のラウンドカットと318石のバゲットカットダイヤモンドを使用。1939年作。コラレット ネックレス(Pt×ダイヤモンド)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
©Van Cleef & Arpels SA
ヴァン クリーフ&アーペルは創業以来、ジュエリー素材の中でもっとも卓越したダイヤモンドを重視してきた。メゾンは、大粒の、歴史的なダイヤモンドの売買に参画するだけでなく、小粒の、しかも最上級の白いダイヤモンドを大胆に使い、創造性豊かなデザインを作り上げ時代のトップを走り続けてきた。
ジュエリーのデザインというものは、一見すると変化しないように見えるが、10年、20年の単位で見ると、間違いなく進化している。20世紀初頭のベルエポック、アールデコ、華やかさとモダニズムが共存した狂乱の1920−30年代、戦後のアメリカの影響の大きいもの、さらに大衆化が進んだ60年以降のもの、ハイジュエリーが再び台頭し、ホワイトダイヤモンドとカラーストーンを組み合わせた様式美を主とする近年と、違いは歴然である。
バゲット、マーキース、ブリリアントカットのダイヤモンドで彩ったトライアングルをつないだ、シンメトリーなデザイン。1928年作。コラレット(Pt×ダイヤモンド)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
©Van Cleef & Arpels SA
プラチナがジュエリーに使用されるようになり、豊富にダイヤモンドを使ったものが主役に躍り出た1920年代、ヴァン クリーフ&アーペルが作ったホワイトジュエリーを象徴するのがコラレット=襟飾りである。当時の流行であったアールデコの様式を取り入れ、ダイヤモンドで作られた三角形をつなぎ合わせたグラフィカルなデザインだ。それが30年代になると、アメリカの影響を感じさせる、幅広のボリュームのあるものが登場する。エジプトのナズリ王妃のために作られた壮麗なシンメトリーのダイヤモンドネックレスは、メゾンの20世紀初期のクリエイションを代表する作品といってよいだろう。
右・1941年作。「リトルウィングド フェアリー クリップ」(Pt×エメラルド×ルビー×ダイヤモンド) 左・1945年作。イエローゴールドが隆盛した時代。オープンワークが美しいリボンのクリップ。(Pt×YG×WG×RG×ダイヤモンド)/ともにヴァン クリーフ&アーペル コレクション
©Van Cleef & Arpels SA
50年代には、モナコ公妃となったグレース・ケリーに認められてモナコ公室御用達のジュエラーとなり、その後公妃のために優美なパリュールやティアラを制作。60年代にはイランのパーレヴィ国王の戴冠式のための豪華なティアラを手掛けた。この時代のヴァン クリーフ&アーペルのユニークさは、欧米のグランメゾンの中で比較的新しく後発でありながら、実に多くの王室の人々に愛され、見事なダイヤモンドジュエリーを作り続けたことにある。どれも時代の流れを確実に取り入れ、それでいて独自のデザインに昇華した見事な作品である。
こうした豪華絢爛たるジュエリーを作る一方で、41年に登場した小さな羽のある妖精のクリップなど、人々が楽しんで使えるジュエリーも多く発表している。繊細なダイヤモンドで生き生きと表現した女性像は、同時期に登場した「バレリーナ」と共に、今でもメゾンのアイコンである。また、創業以来作り続けている自然モチーフも特筆すべきものだ。特にミステリーセットの発明により、花びらの立体感や質感の表現の素晴らしさで、他の宝石商に差をつけることとなった。
計77.34ctのダイヤモンド。ネックレスとしても着用可能。1976年作。ティアラ(Pt×WG×ダイヤモンド)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
©Van Cleef && Arpels SA
メゾンはその歴史の中で、ブルーダイヤモンドの〝ブルーハート〟やピンクダイヤモンドの〝プリンシー〟などカラーダイヤモンドとも深く関わってきた。その伝統を近年具現化したのが、2002年発表の「コレクション オブ センチュリー」である。その中の「プルースト」ネックレスには驚くほど多彩なカラーダイヤモンドがあしらわれ、ホワイトダイヤモンドのレースと見事な対比をなしている。
クチュールの襟を多彩な色とカットで表現。2002年作。「プルースト」ネックレス(WG×YG×ホワイトダイヤモンド×カラーダイヤモンド)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
©Van Cleef & Arpels SA
今回発表された「レジェンド オブ ダイヤモンド」というコレクションは、こうした過去の名作を元に築かれた。〝原石のレソト レジェンドから〞カットされた最上級のダイヤモンドが、美しい色石の海に浮かんでいるという印象の〝25ミステリーセット ジュエルズ〞は、ダイヤモンドと色石の新しい関係性を21世紀のジュエリ―界に示し、メゾンに継承されるスタイルを再解釈した〝ホワイトダイヤモンド ヴァリエーション〞からは、あくまでもダイヤモンドがクリエイションの主役であるという、メゾンの強い思いが伝わってくる。間違いなくヴァン クリーフ&アーペルの新しい伝説が始まったのだ。
最高の色、純度、輝き、そして10.88ctという重量も同じという奇跡のような2石1対が向かい合って。8角形のアッシャーカットを施したダイヤモンドは石内部での反射を増幅し、虹色の光彩を放ちます。サファイアのなめらかなフォルム、バゲットカットとラウンドカットのダイヤモンドが織りなすリズミカルなラインなど、常に新しい美を創造するというメゾンの情熱から生まれた芸術品。
「アントレラ ミステリユー」ブレスレット(WG×RG×ダイヤモンド×サファイア)参考商品
撮影/武田正彦 Fumito Shibasaki〈Donna〉
スタイリング/阿部美恵
文/鈴木春恵 山口遼
デザイン/佐々木啓光〈Vivid.Design〉
家庭画報2023年1月号別冊付録より