2026年1月18日まで東京都庭園美術館で開催中の『永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ─ ハイジュエリーが語るアール・デコ』。アール・デコ期に生まれたジュエリーと建築が見事に響き合う空間演出も大きな話題を呼んでいます。会場構成と什器のデザインを手がけた建築家の西澤徹夫さんに、展覧会の見どころを伺いました。
アール・デコ博覧会(現代装飾美術・産業美術国際博覧会)の宝飾部門でグランプリを受賞した《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》が展示された大食堂の空間。© Van Cleef & Arpels

絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット 1924年 プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
1925年にフランス・パリで『現代装飾美術・産業美術国際博覧会』(通称アール・デコ博覧会)が開催されてから100周年にあたる2025年にスタートした『永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ─ハイジュエリーが語るアール・デコ』。アール・デコ期のヴァン クリーフ&アーペルのハイジュエリー、時計、工芸品などが一堂に会した東京都庭園美術館は、1933年に朝香宮邸として建てられた建物です。
1933年に東京・白金台に朝香宮邸として建設された東京都庭園美術館。 画像提供/東京都庭園美術館
西澤徹夫さん(以下、西澤) 1920年代にパリに滞在された朝香宮夫妻はアール・デコ博を訪問して感銘を受け、帰国後、アール・デコ様式の自邸を建設されました。そのデザインには装飾美術家アンリ・ラパンや、ガラス工芸家ルネ・ラリックなどアール・デコ博にも関わった多数のアーティストが起用されています。現在では東京都庭園美術館となっているアール・デコ建築の中でアール・デコ期の作品に焦点を当てた展覧会の開催に際して、私はセノグラファーとして参加しました。
──そもそもとセノグラファーとは、どんな仕事なのでしょうか?
西澤 展覧会の会場構成や展示デザイン、安全性まで含め空間的な演出をトータルに考える役割です。いつも気をつけているのは「作品の演出」にならないようにすること。花や蝶のモチーフのジュエリーだから背景にも花や蝶をあしらう、というのではなく、そのジュエリーが最も美しく見える光だったり、見る方の想像力が広がる展示。特に今回はジュエリーと空間が対話するために何が必要か、美術館に何度も足を運び、ジュエリーはもちろんヴァン クリーフ&アーペルのパリの工房での作業の様子まで見せてもらって考えました。
朝香宮邸の中でも最もアール・デコの粋が集められている大客室では、重厚な壁や床の色と什器のコントラストを演出。 © Van Cleef & Arpels
──アール・デコのジュエリー、建築の特徴をどのように捉えたのでしょうか。
西澤 アール・デコというと直線的、幾何学的なイメージを抱く方も多いと思いますが、さまざまなスタイルが混在している時代でもあるのです。実際に見てみると大ぶりの宝石を使った曲線的なジュエリーもありますし、邸宅(美術館)も部屋ごとに異なるデザインが用いられていて、柔軟性がある。一つの様式に、いろいろなカルチャーや新しい技術を取り込み、日常の中で使って楽しむ自由な時代の始まりだったと感じました。展示では部屋ごとにジュエリーと空間の色や素材、モチーフが響き合うよう心がけています。
左・「コルレット(襟飾り)ネックレス」1929年 プラチナ、エメラルド、ダイヤモンド エジプトのファイーザ王女旧蔵 右・ローズ ブローチ 1925年 プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、ダイヤモンド ともにヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
──美術館というよりも個人の邸宅を訪れたような気持ちで一つ一つの部屋を巡りながら、それぞれの空間と呼応するジュエリーを鑑賞できるのは、この展覧会ならではです。
西澤 最初に足を踏み入れる小客室ではマントルピースに用いられているのと同じグリーンの大理石を展示ケースに使っています。他の部屋でも作品のデザインと室内装飾や壁紙のモチーフが呼応していたり、柱の色と什器を対比させたり。窓から差し込む自然光が時間によってジュエリーの影を背面に描き出したり。部屋から部屋へ移動するときにちらっと庭が見える展覧会というのも、そもそもあまりないですよね。違う日、違う時間に訪れたら、また違う感じ方ができると思います。旧朝香宮邸という特別な空間で鑑賞することで、100年前のパリと現代の東京が、すぐそこに繋がっているように感じていただけたら。そして、アール・デコの時代にヴァン クリーフ&アーペルのデザイナーが何に心を動かされてこのジュエリーを創ったか、思いを馳せていただけたら嬉しいですね。
左・中央の結び目に留め具が施され、胸や背中に垂らすことも肩にかけて留めることもできる。ネックレス 1929年 プラチナ、ダイヤモンド 右・草花文様のレリーフが施された大食堂の壁面の前にはフラワーモチーフのシガレットケースなどを展示。© Van Cleef & Arpels
西澤徹夫
にしざわてつお 1974年京都府生まれ。青木淳建築計画事務所に勤務したのち2007年に西澤徹夫建築事務所を開設。近作に〈京都市京セラ美術館〉(2019年。青木淳と協働)、〈八戸市美術館〉(2021年、浅子佳英、森順平と協働)、〈熊本市現代美術館〉リニューアル(2022年)など。
永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ─ ハイジュエリーが語るアール・デコ
会期/~2026年1月18日 日時指定予約制。
10時~18時(入館は閉館の30分前まで)。
月曜休館(1月12日は開館、1月13日は閉館)、年末年始(12月28日~1月4日)休館。
会場/東京都庭園美術館
観覧料/一般 1,400円、大学生(専修・各種専門学校含む)1,120円、高校生・65歳以上 700円、中学生以下は無料
https://art.nikkei.com/timeless-art-deco/