[連載]アメシストの神秘 紫の復権 「紫水晶」という和名が示すように、アメシストは水晶という鉱物の一種です。その成り立ちと色の理由について、鉱物の専門家である門馬綱一(もんまこういち)さんに教えていただきました。
・
連載「アメシストの神秘」前回の記事はこちら>>
vol.5 日本産アメシストから学ぶ「紫水晶」の成り立ちと色の理由

右・鳥取県日野郡溝口町藤屋産の紫水晶。下から光を当てる透過照明で撮影することで、内部の鮮やかな紫色を浮かび上がらせた。左・右と同産地の紫水晶を球体に研磨したもの。門馬さんが手にしているのと同一の標本。地球が育んだ鉱物は人の手が加わることで新たな美しさを得る。●掲載の紫水晶はすべて国立科学博物館蔵
鉱物学の専門家、門馬綱一さんによると、アメシストを含む水晶を形作っているのは、“地球上に溢れている、ありふれた成分”だといいます。
「地球の表層部である地殻を構成する岩石に一番多く含まれている成分が酸素で、二番目がケイ素。その2つが合わさった二酸化ケイ素が、数万年から数十万年かけて、溶岩内にできた空洞や火山岩の隙間などで結晶化してできるのがクォーツで、和名が石英(せきえい)です。水晶は、石英の中で六角柱状など結晶の形がはっきりわかるものをいいます」
国立科学博物館 地学研究部鉱物科学 研究グループ研究主幹
門馬綱一さん(もんま・こういち)1980年東京都生まれ。2009年に東北大学大学院理学研究科地学専攻博士課程修了。物質・材料研究機構研究員を経て、11年に国立科学博物館研究員に。17年より同館研究主幹。専門は鉱物学と結晶学で、筑波研究施設を拠点に鉱物の原子配列や鉱物ができる過程などについて研究している。
宮城県白石市小原雨塚山産の紫水晶2点。柱状の結晶で、母岩についていた側は紫が濃く、先端部分はほぼ透明だ。
水晶は、透明のロッククリスタル、黄色いシトリン、ピンク色のローズクォーツなど、さまざまな色の石が存在するのも特徴です。その中で、アメシストが紫色なのはなぜでしょうか。
「紫に発色する理由は鉄です。ただ、鉄が入っているだけでは条件として不十分で、天然のガンマ線などの微量な放射線も必要ですし、水晶ができるときの温度と熱水の成分も関係します」
宮城県白石市小原雨塚山産の紫水晶。母岩に複数の結晶がついているものは、同地の標本としては比較的珍しい。国立科学博物館に展示中。
水晶が紫色に色づくまでには数百〜数千万年かかります──門馬さん
門馬さんはまた、鉄とアメシストの色や大きさの関係について、興味深いことを教えてくれました。
「鉄が多いほうが濃い紫になる可能性は高いのですが、実は鉄は水晶の中に非常に入りにくい成分なんです。さらに、鉄が入る条件と水晶が成長する条件がなかなか相いれない。濃い紫色が特徴のブラジル産アメシストは温度が100度以下の環境で結晶化しているのがわかっていますが、その温度ではケイ素が溶けにくいので、大きくなるのにとんでもなく時間がかかる。これが大きくて色の濃い紫水晶がなかなか産出されない理由かもしれないですね」。
国立科学博物館日本館の「日本の鉱物」展示室。
日本にも昔からのアメシストの産地がいくつかあるものの、採掘される石の大半は色が薄いのだそう。国立科学博物館の日本館にも、日本で一番有名な産地とされる宮城県の雨塚山(あめづかやま)で採掘された標本が展示されていますが、確かに色は淡い紫。見方を変えると、宝石に加工できるだけの条件を備えたアメシストがいかに希少な「地球の尊いカケラ」であるか、ともいえます。
次回は、その希少な色の濃いアメシストが多く産出されるブラジルに舞台を移して、門馬さんが訪ねたアメシスト鉱山の話を中心にご紹介します。
・
「アメシストの神秘」の記事一覧はこちら>>>