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金細工からカラフルで繊細なジュエリーへの変遷をリードした人物とは【アルビオンアート・コレクション】

2025.07.14

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アルビオンアート・コレクション 美と感動の世界 比類なきジュエリーを求めて 第7回 ジュリアーノの変化歴史的ジュエリーの世界的なコレクターである有川一三氏の「アルビオンアート・コレクション」。宝飾史研究家の山口 遼さんの視点で、宝飾芸術の最高峰に触れる第7回は、イタリアが生んだ天才、ジュリアーノの変遷を考察します。前回の記事はこちら>>

Vol.7
ジュリアーノの変化

エトルリアの金細工からカラフルなエナメルへ

19世紀後半のジュエリーを語るとき、イタリアが生んだ2人の天才、カステラーニとジュリアーノを忘れるわけにはいきません。カステラーニについては、ローマ以前のイタリアの先住民であったエトルリア人が残した金細工品、特に粒金と呼ばれる作品を復元した驚嘆すべき技術について、これまでも取り上げてきました。しかし、純粋の美といいますか、ジュエリーとしての美しさや使いやすさという面では、彼の一番弟子であったジュリアーノの方が優れていたかもしれません。

カルロ・ジュリアーノは、ローマのカステラーニのもとで修業した後、息子のカルロ・ジョセフとアルトゥーロとともにロンドンに移住、そこで工房と店舗を構え大成功します。
考古学スタイル インタリオパリュール

素材:ゴールド、グリーンジャスパー、コーネリアン、アメシスト、カルセドニー、ニコロアゲート、サード、プラズマ
製作年:1870年頃
製作国:イタリア

考古学スタイル

インタリオパリュール

カルロ・ジュリアーノ作。インタリオをセットした揃いのジュエリー4点からなるゴールドのパリュールは、考古学スタイルや宝石彫刻など、当時流行していた美意識を表している。それぞれフィリグリーと粒金で縁取られた見事な技術が光る。
ローマで働いていた頃は、師匠に倣い、上のような古代エトルリア風のジュエリーを作っていました。1870年代になり、工房と店舗を開く頃に、作風がガラリと変わります。彼は1895年にロンドンで死去しますが、店は2人の息子が引き継ぎ、1914年にアルトゥーロが死ぬまで続きました。場所はピカデリーとナイツブリッジというロンドンでも最高の場所でしたから、成功の程がわかります。
ルネサンス・リバイバル 3連ネックレス

素材:ゴールド、エナメル、デマントイドガーネット、パール
製作年:1900年頃
製作国:イギリス

ルネサンス・リバイバル
3連ネックレス

息子のカルロ・J・ジュリアーノとアルトゥーロ・ジュリアーノ作の3連ネックレス。チェーンの間には「アンテミオン」と呼ばれる古代ギリシアのモチーフが配されている。粒金をあしらったデマントイドガーネットと、白黒のエナメルのパーツが交互に連なり、胸もとを優美に彩る。
ジュリアーノ一族の作品の最大の特徴は、エナメルの多用によるカラフルさです。エナメルの使い方も、広い面積を1色のエナメルで覆うのではなく、1つの色のエナメルの上に点状に別の色のエナメルを重ねるという繊細なもの。上のネックレスは緑の石はガーネット、それを挟むパーツには白のエナメルの上に極めて小さな黒のエナメルの点が打たれています。全体が細い3連の作りになっているのも、時代の好みを反映しています。
カルロ・ジュリアーノ 作 エナメルイヤリング

素材:ゴールド、エナメル、ダイヤモンド、パール
製作年:1880年頃
製作国:イギリス

カルロ・ジュリアーノ 作
エナメルイヤリング

中央にローズカットダイヤモンドの花をあしらい、多彩なエナメルで緻密かつ色鮮やかなデザインに仕上げたイヤリング。イヤリングはヴィクトリア時代の女性の必須アイテムであった。
もう一つ、見事なイヤリングを。青のエナメルの中にダイヤモンドで古典的な花を描き、その周辺に白のエナメルの格子状の取り巻きとエナメルの上に薄いブルーの線を配した取り巻きをつけ、真珠を随所に配した複雑な作りのもの。光り輝いて見えるエナメルの重ね使いは、同時代のフランスで生まれたものですが、見事に応用しています。

ジュリアーノの作品の中でも小さい作品ですが、私が一番美しいと思うブローチを最後に一つ。
カルロ・ジュリアーノ 作 エナメル細工のブローチ

素材:ゴールド、エナメル、カラージルコン
製作年:1880年頃
製作国:イギリス

カルロ・ジュリアーノ 作
エナメル細工のブローチ

5つの大きなカラージルコンが横に配されたブローチ。ごく細く流麗なオープンワークに、極めて細かいエナメル装飾が光る。
細いスクロール状のデザインの中央に、カラージルコンを5個並べています。このジュエリーの素晴らしさは、透かし模様を構成する細い線の上につけられたエナメル細工にあります。上下左右のパーツには白のエナメルの上に黒の点、細い線の上には黒のエナメル下地に白の点が打たれています。色鮮やかでありながら、非常にすっきりとした構成です。

こうしたカラフルかつ繊細なジュエリーが、当時のロンドンの上流階級の人に好まれ、彼の店が繁栄したのも当然といえるかもしれません。これまでカステラーニとジュリアーノを並べ、エトルリアの金細工の応用だけが喧伝されていたジュエリーとは異なる、ジュリアーノ独特の素晴らしさを感じていただけたでしょうか。

(次回へ続く)

「比類なきジュエリーを求めて 」の記事一覧はこちら>>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2025年07月号

家庭画報 2025年07月号

監修・文/山口 遼(宝飾史研究家)

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