アルビオンアート・コレクション 美と感動の世界 比類なきジュエリーを求めて 第6回 歴史的ジュエリーの世界的なコレクターである有川一三氏の「アルビオンアート・コレクション」。宝飾史研究家の山口 遼さんの視点で、宝飾芸術の最高峰に触れる連載の第6回は、新たなデザインを生み出す苦労について考察します。
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Vol.6
デザイナーの苦労
今日、ジュエリーデザイナーと呼ばれる紙の上にデザインを描く人々は、古代からルネッサンスの終わる頃までは存在しなかったようです。それまでは、ジュエリーを実際に作る職人が自分でデザインを考え、自分で作ったのだと思われます。
もちろん、王侯貴族が欲しいものをリクエストする場合には、スケッチのようなものは描いたでしょうが、デザイン画が一人歩きするということはなかったと思います。デザイン画らしきものが現れるのは15世紀末頃、印刷技術が広まってからのこと。文字だけではなく、木版画、銅版画などが印刷できるようになった頃です。
全く新しいデザインはどこから生まれるか
ジュエリーは紀元前から存在し、莫大な数の作品が作られています。ですから、そもそも新しいデザインを考え出すこと自体が非常に難しい。しかし人は常に新しいものを求める、これは昔も今も変わりません。
宝石商にとって苦労の始まりでもある「新しいデザイン」というものを、彼らはどこから、どうやって生み出したのでしょうか。その苦労がうかがえるユニークな作品を3つご紹介します。
最初の作品のアイディアは、奇想とでもいいましょうか、誰も考えつかない素材を使うことです。次の写真は、アールヌーヴォー期の天才、ラリックの飾り櫛。動物の角を削って作った櫛の上に、ヘーゼルナッツの葉と実があります。こうした櫛は髪の毛を梳くためのものではなく、頭髪の飾りとして日本で発達したものを応用しています。この作品がなんとも奇抜なのは、2つの実。これは本物のヘーゼルナッツの実を使っています。植物そのものが素材として使われているジュエリーはなかなかないでしょう。
素材:ゴールド、角、ヘーゼルナッツ
製作年:1900年頃
製作国:フランス
コーム“ヘーゼルナッツ”ルネ・ラリックは、日本人女性がヘアオーナメントとして愛用していた櫛に想を得て、ヨーロッパのお洒落な女性たちのヘアスタイルに調和する作品を作った。ヘーゼルナッツは、自然を観察し、その造形を取り入れたラリックの作品に数多く登場する。
もう一つは、昔から他に存在するデザインをひねってジュエリーに応用したパターンです。
「プリニウスの鳩」と呼ばれる作品は、水盤の上で水と戯れる鳩を描いています。18世紀末にローマ近郊で見つかったモザイク画が起源で、それを小さくまとめ、ネックレスとイヤリングの円盤の上に載せています。エナメルとダイヤモンドの組み合わせが美しいですね。
素材:ゴールド、シルバー、エナメル、ダイヤモンド、パール
製作年:1803年
製作国:フランス
デミパリュール“プリニウスの鳩”ナポレオン1世の妃である皇后ジョゼフィーヌから、ウジェニー・ド・ラ・セラに贈られたデミパリュール。水盤を囲む数羽の鳩は友情を象徴するモチーフで、1737年にローマ近郊のチボリにあるローマ皇帝ハドリアヌスの別荘の遺跡で発見されたモザイク画に由来する。
最後は、異国、特に東洋のデザインを取り入れたものを。これはブシュロンが作ったエイグレットと呼ばれる形式のブローチで、もとはインド人がターバンの中央に立てていた白鷺の羽根を宝石で模したもの。18世紀頃、英国にやってきたインドの貴族たちが着用しているのを見て、ジュエリーのデザインに取り入れました。
素材:ゴールド、シルバー、ダイヤモンド、サファイア、エメラルド
製作年:1880年
製作国:フランス
ブローチ/エイグレット“孔雀の羽根”孔雀は古来より権力、栄光、富、不死などの象徴であり、インドの国鳥でもある。19世紀後期から20世紀初期にかけて、ジュエラーたちの大きな着想源となった。フレデリック・ブシュロン作のエイグレットは、優雅な曲線を描く孔雀の羽根の軽やかさを見事に表現している。
どうでしょうか、新しいデザインの着想源から、ジュエリーデザイナーの苦心がおわかりいただけたでしょうか。
(次回へ続く)
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