ジュエリー

「ティアラ」は誰もがいつでも使えるというものではありません

2025.05.13

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アルビオンアート・コレクション 美と感動の世界 比類なきジュエリーを求めて 第5回 歴史的ジュエリーの世界的なコレクターである有川一三氏の「アルビオンアート・コレクション」。宝飾史研究家の山口 遼さんの視点で、宝飾芸術の最高峰に触れる連載の第5回は、可変式ティアラの凄さについてご紹介します。前回の記事はこちら>>

Vol.5
ダイヤモンドのティアラ

ダイヤモンドだけを用いたティアラをご覧ください。これが顔の真上に載っているとかなりの迫力ですね。ジュエリーの中でいちばん大きく、顔の真上ですから何より目立つ。しかしその使い方にはいろいろと制約がありました。

多様に使えるティアラが生まれた理由

ティアラは誰もがいつでも使えるというものではありません。基本的には皇帝あるいは王様と、その周辺にいる貴族の女性たちが、正式な晩餐会、あるいはそれに準ずる集まり──その多くは夜のものですが、そこでのみ使うジュエリーです。

ですから、王侯貴族のいないアメリカの大宝石店には、ティアラの作品はほとんどありません。20世紀初頭、アメリカの大富豪の娘が莫大な持参金を持って英国の貴族と結婚したダラープリンセスと呼ばれた女性たちも、結婚に際しては英国の宝石店にティアラを作らせたようです。
ダイヤモンドのティアラ

素材:ゴールド、シルバー、ダイヤモンド
製作年:1860年頃
製作国:イギリス

19世紀 オスカル・マサン風

ダイヤモンドフラワーの可変式ティアラ

フランスの偉大な宝石職人、オスカル・マサンは野薔薇をモチーフにした作品を作ったことで知られる。当時、あらゆる職人がマサンの影響を受けてこの花のジュエリーを多数手がけた。

ダイヤモンドのティアラ 5つの花はすべてトレンブランで揺れるデザインになっており、ダイヤモンドの光が重層的に輝く。ブローチ、ブレスレット、イヤリングとして着用でき、万能ジュエリーとしての役割を果たしていた。
このティアラは薔薇の花をデザインしたもので、花を5個と蕾、それに葉を取り混ぜ、見事な作りです。これが凄いのは、ティアラを構成するすべてのパーツを取り外すことができ、それらが別のジュエリーに化けることです。

まず5つの花の部分が分かれて、それぞれブローチになります。すべてに蕾と葉がついている、恐ろしく手の込んだものです。衣服のデザインに合わせて、複数を一度に使うことができます。花や葉を支えている細い線にご注目ください。これはナイフエッジと呼ばれ、ナイフを正面から見た時に見える細い線のような作りですが、横幅があって、しっかりと花を支えています。中心にあるいちばん大きな花は、付属しているパーツに組み込めば、ブレスレットにもなります。葉の部分を取り外した花は、花だけのブローチにもなり、またイヤリングとしても使えます。

こうした複雑な作りをする理由は、まあ大金持ちといえども、大金を払ったジュエリーはできるだけ使いたいということもあるでしょう。しかしそれよりも、作り手のクラフトマンたちの、自分はこういう複雑なジュエリーを作れるという能力の誇示がかなりの部分を占めていると思います。優れた腕前の作り手ほど自分の能力を示したがるもので、それを買い手の大金持ちに提案し、彼らは鷹揚ですから、2つの意向が相まってこうした途方もなく複雑なジュエリーが生まれたのではないでしょうか。どちらにしても、今ではほとんど作られない見事なティアラの素晴らしさを、どうか堪能してください。

「比類なきジュエリーを求めて 」の記事一覧はこちら>>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2025年05月号

家庭画報 2025年05月号

監修・文/山口 遼(宝飾史研究家)

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