ジュエリー見聞録 宝石史研究家・山口 遼さんの解説で、素晴らしいジュエリーとその見どころをお届けします。
前回の記事を読む>> 連載一覧へ>>
「動物」をモチーフにしたデザイナーの新しい試み
解説/山口 遼(宝飾史研究家)
ジュエリーのデザインの中で、動物のデザインというのは、意外と少なく、むしろ昆虫などの方が多いのです。犬や猫といった、人間に最も近い動物のジュエリーは、ほとんどありません。
このディオールの華やかな新作のネックレス、よく見ると日本人の大好きな動物、子鹿を描いたもの。深い森の茂みの中から振り向くように顔をみせる子鹿がデザインテーマです。メゾンの創設者であるディオール氏が愛した庭園をモチーフにしたものでしょう。
ディオールのクリエイティブ ディレクターであるヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌが動物をデザインに使うのは珍しい、おそらくこれが最初ではないでしょうか。金にダイヤモンドを埋め込んだもので樹木と鹿を描き、花模様でしょうか、プラチナの台座で中央にダイヤモンドをセットしたものの周りを5個の真珠で取り巻いたデザインを繰り返し、チェーンの部分にまで使っています。
真珠はアコヤ貝のものですが、ちょっと珍しいグレイが入った変わった色合いのもの。随所に使われている赤い色の宝石は、珍しくスピネルです。ルビーとはちょっと異なった紫色が入ったピンクが、全体の感じを和らげています。鹿の目と鼻先には黒いラッカーを使って全体として可愛らしさを強調した、ディオールにしては珍しい可憐さを狙ったデザインは、見事に成功していますね。
職人技とセッティング技法を駆使し生き生きとした輝きを演出ディオールのアイコニックなテキスタイル、動物を描いた「トワル ドゥ ジュイ」に着想を得た「ディオラマ」コレクション。異なるカッティングや色合いの石を緻密に計算して配することで、陰影をつくり立体的な仕上がりに。ネックレス「ディオラマ」(PG×Pt×ダイヤモンド×ブラウンダイヤモンド×ピンクスピネル×ホワイトパール×ブラックラッカー)1億1500万円(参考価格)/ディオール ファイン ジュエリー(クリスチャン ディオール)