アルビオンアート・コレクション 美と感動の世界 比類なきジュエリーを求めて 第2回 歴史的ジュエリーの世界的なコレクターである有川一三氏の「アルビオンアート・コレクション」。宝飾史研究家の山口 遼さんの視点で、宝飾芸術の最高峰に触れる連載の第2回は、極めてユニークなカメオをご紹介します。
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鉄や木を彫るという珍しさ
カメオは日本の女性が大好きなジュエリーの一つで、イタリアやドイツで彫られたカメオが多く使われているのはご存知の通りです。鉱物や貝などの表面にデザインを彫り上げたものをカメオといい、逆に彫り下げたものをインタリオと呼びます。
カメオの作り方にはさまざまな方法がありますが、中には台座とデザインの部分が全く別の素材で作られたものがあり、イタリア人はそれをコメッソ──寄木細工と呼んでいるようです。その作例となるジュエリーを2つご紹介します。
Vol.2
不思議なカメオ
最初にご紹介するのは、ベルリンアイアンと呼ばれる鉄を使った珍しいカメオです。これはナポレオンが欧州で暴れていた19世紀初頭に、プロシャ、今のドイツで作られたもの。
素材:鉄、ゴールド
製作年:19世紀初期
製作国:ドイツ
ベルリンアイアン
デミ・パリュールティアラ、イヤリング、そしてネックレスがセットになったパリュール。カメオと葡萄の葉をかたどった透かし細工が交互に配されている。鉄の装飾品は1804年以降ベルリンの鋳物工場で作られるようになり、市内では一時47軒を超える工房が携わっていたという。
写真の黒く見える細い線のところや、カメオの白い板に載せられたデザインは、全て鋳鉄、溶かした鉄を固めたもので作られています。鉄は錆びますから、それを防ぐために、表にはラッカーをかけてツヤを出してあります。カメオに使われているデザインは、ギリシャの神々や愛のシンボルのハエ、キューピッドなどクラシックですが、それらを漆黒の鉄で作ったというのが何とも面白い。硬い鉄でこれほどに繊細に作ることができる技術も、いかにもドイツならではです。
さらに面白いのは、鉄が登場した理由です。当時、プロシャは占領したフランス軍との解放戦争を続けていました。当然、戦費がかかります。それを補うために、政府は国民に対して金銀や宝石の供出を求めます。そして供出した愛国者の人々に対して、一種の名誉として金銀の代わりに鉄で作ったジュエリーを与えたのです。ジュエリーの歴史において、漆黒という色はなかなか類を見ないものです。実のところ、黒は最も派手な色でもあります。フランスのルーアンという小さな街に、鉄の美術品を集めた美術館がありますが、このベルリンアイアンが最も目を引く、派手な展示物になっています。
素材:柘植もしくは果樹、ゴールド、真珠母貝
製作年:1800年頃
製作国:イタリア(推定)
木彫り
メダイヨンパリュールジュゼッペ・ボンザニーゴの傑作と呼ばれるパリュール。ネックレス、イヤリング、ブローチ3点、ベルトのバックル(左)で構成されている。ボンザニーゴはイタリアのトリノにあるストゥピニージ宮殿の装飾彫刻で知られるが、ミニチュア画の巨匠でもあった。
2つ目は、木を彫った実に珍しいカメオです。黒い台座はおそらく真珠母貝を黒く染めたもので、その上に驚くほど精緻に、柘植(つげ)か果樹の木と思われる硬い木を彫ったデザインが載っています。デザインのテーマは母子像や花束、恋愛の象徴であるハエなど古典的なモチーフで、ジュエリーは6点、カメオの数は合計13点のパリュールです。今回はその中から鳩をご覧ください。一つ扱いを間違えると折れかねない木を、どうすればここまで繊細に彫れるのか。これはイタリアのトリノなどで活躍したボンザニーゴという天才彫刻師が彫った作品で、ナポレオン妃ジョゼフィーヌの注文であったといわれていますが、確証はありません。ともかく、これほどに繊細なものが、壊れもせず残っており、それが日本にはるばる来たというのも、感慨深いものがあります。
実物はいずれも極めてきれいです。どうですか、宝石を彫ったカメオもいいですが、このコメッソたちもユニークではありませんか。
(次回へ続く)
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