
アルビオンアート・コレクションの真髄から
監修・文/山口 遼(宝飾史研究家)
これまで数年にわたり、アルビオンアートが所有する数々のジュエリーをご紹介してきました。そのたびに、このジュエリーはどこで見られるのか、どこで買えるのかというお問い合わせをいただいてきました。そうしたご要望にお応えするために、究極のコレクションの中から、数点の逸品を選び、特別にご紹介することといたします。世紀を超えて私たちに美と感動をもたらしてくれる名品と出合い、所有する喜びをお届けします。
◆このページでご紹介したジュエリーはホテル The Okura Tokyoロビーフロアのアルビオンアートで実際にご覧いただき、ご購入いただけます。↓お問い合わせ先はこちら↓
さまざまな素材の表面に立体的にデザインを彫り上げるものをカメオといい、これとは反対にデザインを素材の中に彫り下げるものをインタリオといいます。歴史的にはインタリオの方が遥かに古く、紀元前数千年のシュメールの頃から作られています。インタリオは純粋な装身具として作られたというよりも、一種の印章として作られたようで、これを粘土などの柔らかい素材に押し付けると、掘り下げられたデザインが盛り上がった形で粘土上に残ります。まあ、昔のハンコだと思ってください。インタリオが装身具の素材としてあまり使われなかったのは、彫り下げた図柄がよく見えないためです。
これが突然に変化を見せるのが、19世紀初め頃。これまでジュエリーの顧客といえば王侯貴族と聖職者だけでしたが、普通の、一般の人々がジュエリーを買い、使うようになったのです。その理由は、産業革命による新しい富裕階級の登場です。汽車、蒸気船の発達、それに伴う旅行の一般化から、銀行、旅行会社、ホテルなどが雨後の筍のように生まれます。すべて普通の人々が行った事業で、いわゆる「新しい金持ち」が生まれたのです。彼らがすることは今も昔も変わりません。買い物です。ジュエリーはその筆頭でした。そしてジュエリーの中でも一番わかりやすいもの、それがカメオでした。
新たなカメオとして作られたのは、古代からのデザインをそのまま模倣したものが多く、やがて旅行先の風景や人の画像など、わかりやすいものが作られるようになり、主にイタリア南部を中心として旅行のお土産などで大衆化が進みました。さらにバリエーションも増えます。板状に彫るだけでなく、図柄を丸ごと立体に彫るものも生まれ、見事な色石の表面全体にそのままデザインを彫り込むものも登場します。
これにつれて使う素材にも変化が出ます。これまでの石の代わりに彫刻がしやすい貝殻が登場し、さらに偽物も生まれます。有名なのはコメッソと呼ばれるもので、これは一つの素材を彫るのではなく、別々に作った素材を貼り合わせるものでした。こうして大衆化が進みすぎたカメオは、ヴィクトリア時代が終わる20世紀になると、ジュエリーというよりもお土産品となり、次第に安物のイメージを持ったものとなり、優れたジュエリーの世界からは消えていきます。
今日、ジュエリーとして扱われるものは、古代から生き残った作品か、ジョージアン、ヴィクトリアン初期に手彫りで作られた少数のものに限られると思います。
最初にご紹介する[1]は比較的大きなもので、ブラッカムーアと呼ばれるアフリカ大陸の地中海沿岸に居住していた黒人の女性を描いたもの。端正な女性の横顔がジュエリーで飾られており、これをカメオ・アビエと呼びます。このカメオは、頭飾りとチョーカーが見事ですね。身に着けるとすごい迫力ですが、使わないときには小さな額縁に入れて、アートとして部屋飾りにしてもよいくらいの美しさです。今では入手が難しい傑作といえます。 
次は小ぶりなカメオをご紹介しましょう。[2]は古代末期のお伽噺に登場する恋人同士で、口づけをするキューピッドとプシュケを描いたもの。背中に翼がついた子どもの像で、天使と混同されることが多いです。その頭部だけをムーンストーンで立体的に彫り、翼を宝石で飾ったものをブローチにしためずらしいもの。小ぶりで使いやすいサイズです。
[3]も使いやすい大きさ。見事な色合いのガーネットを、丸ごと女性の横顔の
カメオに仕立てています。つけている装身具から、おそらくは王妃か王女、王家の女性でしょうか。小さいダイヤモンドの取り巻きの細工が美しく、実際に身に着けると非常に印象的で、見る人が驚くジュエリーですよ。
[4]はこれぞカメオといった感じの典型的なデザイン。白と茶の二層の素材で、一見シェルカメオに見えますが、アゲートを用いたストーンカメオです。描かれているのは、ベールを被ったヴィーナスに小さなキューピッドが小鳩を捧げて飛び回るという神話のモチーフ。彫りがじつに繊細で、流れるようなラインが素晴らしいのです。まわりのフレームは全くの非対称で、石の外形に合わせ、ダイヤモンドの飾りがリズミカルに配されています。
ここにご紹介した4つのカメオは、デザインの面白さ、彫りの素晴らしさを兼ね備えており、これからも優れたジュエリーとして生き残っていくと思えるものだけです。ほとんど市場には残っておらず、アルビオンアートでしか手に入らない逸品といえます。
このページでご紹介したジュエリーはホテル The Okura Tokyoロビーフロアのアルビオンアートで2026年10月末日まで展示中です。実際にご覧いただき、ご購入いただけます。
■お問い合わせ
アルビオンアート
The Okura Tokyo
プレステージタワー5階
担当:大野
電話:03-6738-8100(受付時間:10時~18時/不定休)
住所:東京都港区虎ノ門2-10-4
この記事の掲載号
監修・文/山口 遼(宝飾史研究家) 撮影/栗本 光