1910年、パリのカンボン通りに小さな帽子店を開いたガブリエル・シャネル。「マドモアゼル」あるいは「ココ」と親しまれた彼女は、コルセットで女性の身体を縛っていた時代に、軽やかで機能的なファッションを生み出し、20世紀のモードを根底から塗り替えました。
彼女の革新はファッションにとどまりませんでした。世界が大恐慌の闇に沈んでいた1932年、生涯初で唯一となるハイジュエリーコレクション「Bijoux de Diamants」を発表。ダイヤモンドジュエリーの概念そのものを刷新し、美の光と夢を世界に与えたのです。
「私のジュエリーは、何よりもまずひとつの思いの表れ」とマドモアゼルが語っていたように、そこには流行や格式への迎合はなく、ただ自らの内なる世界への誠実さがありました。
マドモアゼルが人生で出合った大切な記憶を昇華させ、生涯にわたって愛した“シンボル”から、シャネルの新作ハイジュエリーコレクション「Signes & Symboles(シーニュ・エ・サンボル)」が誕生しました。ジュエリーのモチーフとなったサインやシンボルに込められた、マドモアゼルの“思い”を感じてみてください。
85の結晶が語る4つの物語
全85点のピースで構成されるこのコレクションは、4つの章──「Les Imprimés(レ ザンプリメ)」、「Le Lion Emblématique(ル リオン アンブレマティック)」、「Les Bijoux Talismans(レ ビジュー タリスマン)」、「Les Symboles(レ サンボル)」──から成り、シャネルの世界観を彩るシンボルの中から特に、ライオン、星、カメリアに注目しています。さらに、サファイア、ルビー、エメラルド、ダイヤモンドという4種の貴石、“プレシャス フォー”が随所に配され、シンボルと共にシャネルならではの感性で美しく調律されています。
Les Imprimés ― 繰り返すパターンの詩
この章ではマドモアゼル・シャネルが愛したシンボルが繰り返しパターンとして展開されます。この章を象徴するのが「アンプリメ リオン ネックレス」です。中央で威厳を放つライオンを取り囲むように、様々なカットを施したダイヤモンドと共にカメリア、星、太陽の幾筋もの流れが胸もとを広く飾ります。ライオンが頭上に戴くのは20.66カラットのオクタゴンカットブルーサファイア。サファイアは古来より、天空と英知を象徴する石とされてきました。中世ヨーロッパでは「天国の青を地上に映す石」として聖職者や王族に深く愛され、誠実さと高貴さの象徴でもありました。
「アンプリメ バンドゥ ネックレス」の中央でひときわ目を惹くのは4.09 カラットのエメラルド。その豊かな緑色から、古来よりエメラルドは癒しや邪悪なものから身を守る力と結びつけられてきました。ダイヤモンドのカメリアと星たちがまるで幅広のリボンに縫い取られた可憐な刺繍のように連なり、心地よいリズムを刻みます。そのリズムがエメラルドに収斂され、神秘の石をより神秘的に輝かせるように感じられます。
「アンプリメ リオン ネックレス」ライオンが戴くのは8角形にカットされた20.66カラットのサファイア。滝のようなダイヤモンドの星々と共に胸元で神々しいまでの存在感を放つ。

「アンプリメ バンドゥ ネックレス」 星とカメリアが織りなす可憐で優雅なリボンのようなネックレス。4.09カラットのエメラルドが気品と華やかさを添える。
Le Lion Emblématique ― 獅子座に捧ぐ
獅子座生まれのマドモアゼルシャネルが愛したライオンは、古くから王権と勇気の象徴として崇められてきた動物です。古代エジプトではスフィンクスとして太陽神と結びつき、中世ヨーロッパの紋章では王侯貴族の誇りを体現し、キリスト教世界では「決意と王権」の象徴として聖獣とされてきました。マドモアゼルは、ライオンのオブジェを常に身の回りに置き、自己の象徴として深く愛していました。
「リオン ミルネール リング」は、闇夜に浮かび上がるように輝くダイヤモンドのライオンと炎のようなルビーが主役です。古代インドでは「宝石の王」と称えられたルビーは、生命力と情熱の象徴。オニキスの漆黒と対峙する深紅の輝きが、静と動、百獣の王の力強さと威厳とを、色彩で見事に体現しています。2つのリングが組み合わされたこのリングは、それぞれ独立したリングとしても着用できます。
さらに異彩を放つのが「リオン マジストラル リング」です。ローズゴールドとホワイトダイヤモンドで表現されたライオンは彫刻像のように立体的です。前足でエメラルドを抱く姿はスフィンクスのように堂々たる威厳と決意に満ちています。このリングをロッククリスタルの台座にセットすることでライオンはオブジェとしても誇り高き姿で存在感を示してくれるでしょう。
「リオン ミルネール リング」 炎のような9.41カラットのオーバルカットルビーと静寂を湛えるオニキス。それぞれを分離させて2つの独立したリングとしても着用できる。

「リオン マジストラル リング」 3.34カラットのエメラルドを守るライオンは彫像のよう。リングをロッククリスタルの台座にセットすれば玉座に座る王のような堂々たる姿のオブジェに。
Les Symboles ― シンボルと大胆な色彩のシンフォニー
この章で存在感を放つシンボルはカメリアです。香りを持たず、凛とした美しさを持つカメリアは、マドモアゼル・シャネルが生涯にわたって愛し続けた花でした。ファッションの世界からジュエリーの世界へ、純粋さと独立心のシンボルへと昇華させたカメリアは、メゾンのクリエーションを通貫して「シャネル」のスタイルを表すものとして、今日もシャネルの永遠の紋章であり続けています。
カメリアの気高さを表現した作品が「シーニュ エ サンボル コレクション カメリア モチーフ ローズ リング」です。清楚な色合いのピンクサファイアで縁取られ、ダイヤモンドで埋め尽くされた花びらの中央に、オーバルカット10.32カラットものDフローレス ダイヤモンドが鎮座します。カメリアの清らかな美しさの下に秘められた強さをグラフィカルなデザインに昇華した見事な作品です。
「サンボル サフィール ブレスレット」ではカメリアは、少女のような朗らかさを見せます。カラフルなビーズのようなサファイア、ターコイズ、オニキスの軽やかなリズムを背景に、10.61カラットのクッションカットサファイアを花芯としたカメリアが大胆に花開き、屈託なく微笑むようです。
「シーニュ エ サンボル コレクション カメリア モチーフ ローズ リング」 メゾン シャネルのスタイルを体現するカメリアの花。グラフィカルな花の中心で10.32カラットのオーバルカットダイヤモンドが力強く、純粋に輝く。

「サンボル サフィール ブレスレット」 ブルーのカラーパレットで彩られたカメリアのモチーフ。10.61カラットのブルーサファイアの花芯を取り巻く花びらもブルーサファイアの輝きをまとう。
Les Bijoux Talismans ― ジュエリーはお守り
マドモアゼルにとってジュエリーとは、邪悪なものから身を守るアイテム、すなわちタリスマンでした。多くのものがシンボルや徴(しるし)として存在していた彼女の世界において、身に纏うジュエリーは単なる装飾を超えた、お守りそのものでした。そうした彼女のジュエリー作品には天体のシンボルが繰り返し現れます。これらは、彼女が幼少期に過ごしたフランス、オーベルニュ地方オバジーヌにある修道院の石畳の道に刻まれた月や星などの天体の紋章の記憶から生まれたものです。中でも星は彼女の創作の偉大なインスピレーションでもあります。「私の星たち!これ以上に永遠でモダン、シックな形はない」──ガブリエル シャネル1932年に発表された最初のハイジュエリーコレクション「Bijoux de Diamants」でも、星はダイヤモンドをまとい、輝いています。
「タリスマン グラフィック ブレスレット」は、全体が神秘の光を放っているかのような作品です。イエローゴールドのタブレットはパヴェセッティングしたイエローサファイアに覆われ、グラフィカルな星の形が刻まれています。星が放つ力強い黄金色の輝きと全てを浄化するようなダイヤモンドの純粋な輝きが溶け合います。
マドモアゼル・シャネルの名前を冠した2点のリングがあります。ブラックとグリーンの「タリスマン ガブリエル リング」です。それぞれのリングの上に大きな星が瞬いています。夜のような漆黒のオニキスの上で放射線状に鋭い光線を放つ星、そして広い世界を象徴するような緑色のクリソプレーズの上で涼やかに佇む星。マドモアゼルの力強さと自由な気風が星の姿を借りて具現化したようなリングです。
「タリスマン グラフィック ブレスレット」 星の神秘性を具現化したようなブレスレット。イエローゴールドとイエローサファイアの組み合わせが生む黄金の輝きとダイヤモンドのピュアな輝きが溶け合う。

右・「タリスマン ガブリエル リング」 夜空に瞬く星は神秘的な存在。漆黒のオニキスの上で星が放つ光線は身につける人に神秘の力が降り注ぐよう。 左・「タリスマン ガブリエル リング」 シャープなデザインの星に穏やかさと豊かな空間的奥行きを与えるのは緑色のクリソプレーズ。大きな星が孤高の自由を象徴するように瞬く。
シンボルは永遠のクリエーションへ
「Signes & Symboles」は、マドモアゼル・シャネルへの追憶であると同時に、現在進行形のシャネルの美学を表明したものでもあります。パリのヴァンドーム広場18番地のアトリエで職人の手によって一点ずつ生み出されるこれらのジュエリーには、シャネルの「サヴォアフェール(卓越した職人技)」と、マドモアゼルが生涯をかけて磨き続けた美学、自己への誠実さが凝縮されています。
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