19世紀半ばのパリに創業した「カルティエ」は、時代ごとの美意識を映し出しながら、ジュエリーを単なる装飾ではなく、文化や芸術と結びつく存在へと高めてきました。アール・デコ、オリエンタリズム、自然主義―そのどの時代においても、カルティエの創作を支えてきたのは、卓越した石への眼差しです。
新作ハイジュエリー コレクション「ル クール デ ピエール」は、その哲学をあらためて鮮明に映し出すコレクションです。コレクション名にある“クール”は、フランス語で“コーラス”という意味の言葉であると同時に、その発音は“心”を表す言葉と同じものです。個性の異なる石たちが互いを引き立てながら、一つの調和へと向かう――そこには、カルティエならではの美の構築力が息づいています。ハイジュエリー クリエイティブディレクターのジャクリーヌ・カラチ=ランガンは、「ストーンに宿る唯一無二の魂と存在感に心を動かされ、それを解釈し、その魅力を最大限に引き出すことが重要」と語っています。
このコレクションに通底するのは、“石を中心に据えてデザインを考える”というカルティエの姿勢です。鉱物としてもっとも厳格な基準で選び抜かれたストーンは、個性を見極められます。幸運にも「言葉では言い表せない魅力」を持つ石、感性に訴える魅力を持つ石とも言える「カルティエ ストーン」に出会えた時、新たな創造が始まります。カルティエの職人たちの情熱と技術によってこの個性的な石たちはジュエリーという造形へと昇華されていきます。カルティエにとって宝石は創作の起点そのものです。
「ル クール デ ピエール」の第1章は125点以上の作品で構成され、85,000時間もの情熱が注ぎ込まれた壮麗なシンフォニーです。その中から7点を取り上げてご紹介します。
「オロラ」ネックレス
ターコイズ、ラピスラズリ、エメラルドという古代から愛されてきた鉱物を組み合わせた「オロラ」ネックレスは、カルティエならではの色彩感覚を映し出す作品です。青と緑の濃密な対比は、20世紀初頭にメゾンが確立した大胆な色彩美を再解釈しています。
この色の対比が首もとに沿って繰り返される構造的なモチーフに配されて幾何学的な旋律を描き出します。さらに、ネックレス中央部分のモチーフの先端にあしらわれた合計40.67カラット、5石のコロンビア産エメラルドが放つ鮮烈なグリーンは、作品全体のリズムを決定づけています。深い緑でありながら光を含んだように柔らかいこの色調はコロンビア産エメラルドのひとつの特徴です。
「パンテール ケンティア」ネックレス
1914年以来、カルティエの象徴として君臨するパンテール。そのパンテールがネックレス中央で大切に守るように寄り添うのが50.13カラットのスリランカ産サファイアです。そのカボションカットの滑らかな曲面はパンテールのしなやかな身体の表現に呼応して互いの存在感を引き立てています。また、ネックレスの幾何学的な構造を埋め尽くすダイヤモンドの白い輝きが、サファイアの艶やかなブルーとの印象的なコントラストを生んでいます。
「スペキュラ」リング
トライアングルカットのダイヤモンドを1石ずつセットした2つのリングを組み合わせて着用するという斬新な発想から生まれた「トワ エ モア リング」です。鏡像のように向き合う合計6.44カラットの2石のダイヤモンドが、重ねるリングの向きによってその表情を変えます。ダイヤモンドの鋭角的なカット面に呼応するように、オニキスがグラフィカルな陰影を添え、ミニマルでありながら強い緊張感を漂わせる「スペキュラ」リングは、構造美が際立つリングです。
「テリュラ」ネックレス
ひとつひとつがユニークなフォルムを持つ30石のダイヤモンドがその起源を語るジュエリーです。躍動感のあるデザインは、火山の熱と圧力によって地中に結晶したそれらのダイヤモンドが、火山の爆発と共に地上にもたらされた瞬間を表現しているようです。「テリュラ」ネックレスは、優れた品質のダイヤモンドだけが持つ高い屈折率によって生まれる鋭い輝きを建築的な構造の中に追求した“光の彫刻”ともいえるジュエリーです。
「テセリア」リング
リングの中心で華やかな輝きを放つのは5.24カラットのモザンビーク産ルビー。幾何学的なデザイン、構造の中で、モザンビーク産ルビー特有のわずかにオレンジを帯びた赤い石が力強さと共に、野に咲く花のような有機的で温かい表情を生んでいます。ルビーをとりまくクッションカットのダイヤモンドと、同じフォルムのオープンワークの花冠のような構造が光と影のリズムを巧みに操り、ルビーの色彩と透明感、ボリュームを際立たせています。
「ハリマ」ネックレス
写実的なタイガーの姿が視線を捉える「ハリマ」ネックレスを支配するのは野生味と気品という、反する二つの気配です。タイガーの足もとに大胆に配された、計28.04カラットの5石のインペリアルトパーズ。特有の黄金色から赤褐色へ移ろうピュアな色彩が野生のタイガーの躍動感を際立たせています。さらに毛皮の斑紋表現にも目を奪われます。オレンジダイヤモンドやガーネット、オニキスが組み合わされ、毛並みの陰影や身体のうねりを連続性を持って立体的に描くその技術には、宝石細工と石のセッティングの精度が求められます。こうした写実性と抽象性を往還する表現は、野性的な大胆さと品格を絶妙な均衡で両立させるカルティエの真骨頂といえるでしょう。
「トゥッティ カニャ」ネックレス
1920年代、インドの装飾文化との出会いから誕生したのがカルティエの「トゥッティフルッティ」スタイルです。その流れを受け継ぐ「トゥッティ カニャ」ネックレスは様々な宝石の鮮やかな色彩が調和する小さな庭園です。そこには石たちの歌声があふれています。主旋律を歌うのは、30.33カラットのザンビア産エメラルド。ザンビア産ならではの青みを帯びた深い緑は、透明感と力強さを宿し、表面に施された彫刻によってさらに陰影が際立ちます。周囲を取り巻く、ルビーやサファイア、エメラルドを花や果実をかたどったモチーフによって美しいハーモニーが生まれます。この、宝石を花や果実へと彫刻するグリプティック技術は、専門アトリエを有するカルティエの伝統的サヴォアフェールのひとつ。硬度や結晶構造の異なる鉱物を精密に彫り上げるには、卓越した技術と石への深い理解が求められます。
個性を持つ石とサヴォアフェールの邂逅
石を起点として生まれた「ル クール デ ピエール」コレクションの魅力は、宝石の希少性だけではありません。色彩のコントラスト、構造、ボリューム、動き、光の反射までも精密に設計されてジュエリーは初めて“生きた表現”となります。心を動かす個性を持って自然界に生まれた石たちと、人の手と情熱による創造。その幸福な出会いこそが、カルティエの「ル クール デ ピエール」コレクションを特別な存在にしているのです。
「オロラ」ネックレス
合計40.67カラットの5石のエメラルドはコロンビア産。特徴的な透明度が高く深いグリーンが、ブルートホワイトが織りなすモチーフの反復に軽やかなアクセントに。

「パンテール ケンティア」ネックレス
パンテールと共にスリランカ産50.13カラットのカボションカット サファイアがセンターを飾る。スリランカはサファイアの伝統的な産地のひとつ。

「スペキュラ」リング
「トワ エ モア」リングに新しい概念をもたらしたリング。主役は合計6.44カラット、端正なトライアングルカットを施したペアのダイヤモンド。

「テリュラ」ネックレス ユニークなフォルムを持つ30石のダイヤモンドが揺れる彫刻的なネックレス。ジュエリー職人たちの挑戦がダイヤモンドの誕生を祝福する。

「テセリア」リング
様々な色調の赤い色を示すルビー。5.24カラットの華麗なモザンビーク産クッションシェイプのルビーは、特有のほんのりとオレンジを感じるレッドが格別。

「ハリマ」ネックレス
大胆に配された5石のインペリアルトパーズ。自然界で様々な色に生成されるトパーズの中で、赤みを含んだ多色性を持つインペリアルトパーズは希少。

「トゥッティ カニャ」ネックレス
ネックレスの中央に下がるモチーフを飾る30.33カラットのザンビア産エメラルドは圧巻。表面のエングレービングが石に表情を加える。モチーフを取り外してブローチとしても着用できる。