[連載]アメシストの神秘 紫の復権 ブラジルの辺地にありながら、“アメシスト観光”で賑わう町、アメチスタ・ド・スル。2年前に同地を訪れた鉱物学者の門馬綱一(もんま こういち)さんが、その貴重な体験について語ってくださいました。
・
連載「アメシストの神秘」前回の記事はこちら>>
vol.6 世界有数のアメシストの産地ブラジル「アメチスタ・ド・スル」を訪ねて
アメシストの産地として有名な国の筆頭といえば、南米・ブラジルです。鉱物学者の門馬綱一さんによると、ブラジルでアメシストの採掘が始まったのは1820年代半ば頃。現在も多くの鉱山が現役で、生産量は隣接するウルグアイと並び、世界最大級です。
門馬さんがテレビ番組の企画で、ブラジルのリオ・グランデ・ド・スル州にあるアメシストの産地、アメチスタ・ド・スルを訪問したのは2023年。
「日本からフランクフルト乗り換えでサンパウロへ飛び、国内線でシャペコに移動しました。日本からシャペコまで、乗り換え時間を含めて45時間ほど。そこで1泊し、翌朝、車で約2時間移動して、ようやくアメチスタ・ド・スルの町に着きました」
丸2日ほどの長旅を経て辿り着いたのは、町全体がアメシスト鉱床の上にある、まさしくアメシストの町。
緑に覆われた横穴はすべて採掘が終わった鉱山の入り口。門馬さんは向かい側にあった“現役”の穴に入り、採掘現場を見学した。
「ここの鉱山は、横に掘り進めれば必ずアメシストが採れるので、至るところ横穴だらけ。採掘の道具はハンマーとコンプレッサー式のドリル、火薬だけで、ほぼ手掘りです。鉱山内で、高さ2・5メートルほどの巨大なアメシストのジオード(内部の空洞に鉱物の結晶が形成された石)を見せてもらったときは息をのみました」
採掘しているのは地元の鉱山労働者たち。一定の範囲の岩を掘り進めば、それなりのジオードが採れるため、鉱山労働者にとってはリスクが少ない仕事場なのだそう。
観光スポットの大半がアメシスト関連という町で、特に人気なのが、アメシストでできた壁が壮麗なサン・ガブリエル教会です。門馬さんは「観光用のアメシストなんて」と期待していなかったそうですが、実際に足を踏み入れてみて感動。
サン・ガブリエル教会はアメチスタ・ド・スルの中心部に建つカトリック教会。2003年から5年かけて建て替えられ、今の姿になった。
Adobe Stock ⓒTamara
「40トン以上ものアメシストが使われているだけあって、個性的な石も混ざっていますし、マリア像の周囲などには宝石になりうる上質なものもあり、長時間、見入ってしまいました」と話します。
テーブルの中央にアメシストのジオードが煌めくレストランは元は鉱山。連日観光客で賑わう。
門馬さんはまた、採掘の終わった鉱山を改造して開いたレストランも訪問。「天然の岩がむきだしの壁や天井が気になって、食事に集中できませんでした」。
レストランの入り口で門馬さんの目を引いたのは、岩から掘り出す前のジオード。「この内側に空洞があって、アメシストの結晶が一面についているはずです」。
楽しそうに語る門馬さんにとって、この旅唯一の後悔は、「純粋な観賞用のアメシストを買わなかったこと」だそう。
「紫の色が濃く、上質なアメシストのジオードがたくさん並ぶ、産地ならではのお店に行ったとき、一つ欲しいなと思ったんです。でも、日本に無事に持ち帰れるか不安で買わず、町を出てから後悔しました。訪問した鉱山でお土産にもらったジオードのかけらと、珍しい特徴を持つアメシストは、標本として国立科学博物館に登録しました」。
アメシストの町で、門馬さんがディーラーに見せてもらった石。茶色い部分は酸化鉄。
門馬さんはまた、鉱物学者としての成果は、文献や市場に出回っている標本からはわからない、さまざまなことを感じ取れたことだといいます。
「例えば、重力の影響でジオードの上部と下部で結晶の成長の様子が異なるものも見ることができました。合成アメシストが作られるようになった現在も、天然のアメシストの生成については多くの謎が残されています。悠久の時の流れと自然の奥深さを感じさせてくれる石です」
チャンスがあれば、次はウルグアイのアメシストの産地を訪問し、ブラジルとの共通点や相違点を見てみたいと話す門馬さん。アメシストの謎を巡る旅はまだ続きがありそうです。
写真/中村 淳
国立科学博物館地学研究部
鉱物科学研究グループ研究主幹
門馬綱一さん(もんま・こういち)1980年東京都生まれ。2009年に東北大学大学院理学研究科地学専攻博士課程修了。物質・材料研究機構研究員を経て、11年に国立科学博物館研究員に。17年より同館研究主幹。専門は鉱物学と結晶学で、筑波研究施設を拠点に鉱物の原子配列や鉱物ができる過程などについて研究。これまでに「千葉石(ちばせき)」など複数の新鉱物を発見している。
・
「アメシストの神秘」の記事一覧はこちら>>>