諏訪 宝石も実は地球の中で植物染めと同じことが起こっているのではと思います。宝石が地中でできるときの周囲の環境や条件などにより、同じ宝石種でも微妙に色が異なります。
志村 それは興味深いお話ですね。ところで、今日お持ちくださった貴重な宝石大色相環(下)は、どういういきさつで作られたのですか。
【宝石大色相環】諏訪さんが365石の宝石を使用して、次女の智子さんと制作。特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』で宝石の多様性を示すものとして展示された。現在は国立科学博物館所蔵。
諏訪 3年前、国立科学博物館特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』の展示用に作成しました。
志村 赤が上にあるのはうちの色彩環と同じですが、配置は逆回りですね。
諏訪 マンセルの色相環をもとに日本色彩研究所が作った日本色研配色体系というものをベースにしております。外側へいくほど色が濃くなるよう配置しました。志村さんの色彩環(下)はいつ作られたのですか。
【糸の色彩環】25年ほど前、ゲーテの色彩論に影響を受けた志村さんと母・ふくみさんが制作された色彩環。草木染めにこれほど多彩で鮮やかな色のバリエーションがあることに驚かされる。
志村 25年ほど前、ゲーテの色彩論の影響を受けて母(志村ふくみ)と作成しました。
諏訪 色彩環を完成させるために、意図的に染めたりされたのですか。
志村 いえ、工房にあったものを当てはめて作り上げました。ただ、ドイツ人であるゲーテの色は光の色であり、西洋のステンドグラスの色。特別な植物からしか出ない鮮やかな色ばかりです。大半の植物から出るのは、グレー、茶色、ベージュですから。
諏訪 確かに鮮やかですね。宝石の品質を判断する際、色み、彩度、濃淡、透明度、光沢のよさなどを見ます。この美しい糸の光沢や濃淡を見ていると、宝石と同じであることを実感します。
志村 私も同じことを考えていました。以前、「ヴァン クリーフ&アーペル」さんからお声がけいただいて、京都で一緒に展覧会をしたんです。
諏訪 その展覧会、私も拝見しました。大変見ごたえがありました。
志村 ありがとうございます。うちのきものとあちらの宝飾品が同じ場所で展示されたとき、母が「植物は鉱物にかなわないわね。宝石の色は宇宙的ね」といいましたが、私もそう思います。宝石は、地球ができた頃の古い記憶を想起させるところが植物にはない魅力です。そんなふうに考えているせいか、「糸が宝石に近づきたがっている」と感じることがありまして。先程、紫の糸とアメシストを並べた際は、濃い紫の糸(下左の2つ)が「私はここまで宝石に近づいた」と気位高く宣言しているように見えました。でも、植物の色も素晴らしいんですよ。命をいただいていますから。サクリファイス(犠牲)が目に見えるという点で大変貴重だと思うんです。
志村さんと工房の皆さんが紫草の根、紫根で染めた絹の糸。同じ色彩、光沢を持つ宝石と糸に、お二人も感嘆していた。
植物で染めた糸とアメシストの紫がこれほどまでに同じ色彩とは。心が震えました──諏訪さん
諏訪 宝石にはない尊さですね。
志村 草木染めは、蚕のまゆからとった糸を植物で染め、鉱物で媒染して完成します。つまり、動物、植物、鉱物という、地球から生まれたものたちによる合作なのですね。そんな方法を最初に思いついた先達を尊敬します。
諏訪 それを大切に受け継がれている志村さんもすごいです。
(後編へ続く。)
・
「アメシストの神秘」の記事一覧はこちら>>>