〔特集〕[ヴィトン家6代目来日スペシャルインタビュー]守るべき手仕事(サヴォアフェール)の情熱 創業者ルイ・ヴィトンが世界初の旅行用トランク専門店をパリに構えてから172年。かのメゾンは、なぜこんなにも私たちを惹きつけるのでしょうか。創業家の6代目であり、サヴォアフェール(匠の技)部門の責任者を務めるピエール-ルイ・ヴィトンさんの言葉から、その源流に迫ります。
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「サヴォアフェールはアトリエからしか学べません。すべての原点がそこにあるのです」
「私の使命は、歴史的なサヴォアフェールを守り抜くこと。それは、創業者のルイ・ヴィトンがしていたのと同じように、現代もトランクが作れるということです。そのためには単に技術だけではなく、背景や歴史的文脈も合わせて職人たちに伝える必要があり、そこにとても多くの時間を割いています」
こう語るのは、ピエール-ルイ・ヴィトンさん。ルイ、ジョルジュ、ガストン-ルイと続く初代から数えて6代目にあたるヴィトン家の子孫であり、2004年にメゾンに入社後、ヘッド・オブ・サヴォアフェールを務める人物です。
ピエールさんが手を置いているのは、ファレル・ウィリアムスによる2026年秋冬メンズ・コレクションの新作トランク。一見レザーにも見える素材は、ブナ材にエングレービング(彫刻)を施してメゾンを象徴するツートーンのダミエ・パターンを表現したもの。やわらかな木のぬくもりと、最高峰の匠の技を堪能できる傑作です。手前と奥・「クーリエ・ロジン 110」(幅112×高さ52×マチ56.5センチ、ともに参考商品)/ともにルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトンクライアントサービス)
Pierre-Louis Vuitton(ピエール-ルイ・ヴィトン)1974年フランス・アニエールに生まれ、当家の6代目を代表する一人。2004年にルイ・ヴィトンへ入社。現在はヘッド・オブ・サヴォアフェールとしてマルティエ(トランク製造職人)のクラフツマンシップを守り、継承することに力を注ぐ。
初代のルイが工房兼住まいとして居を構えたアニエールの邸宅には、幼い頃からなじみがあり、現在もスペシャル・オーダーのトランクなどを製造する重要なアトリエとして、彼の拠点の一つになっています。
ルイ・ヴィトンの歴史を綴った書籍『FROM LOUIS TO VUITTON』と専用トランク。308万円 通常版書籍は2万9700円。日本でも購入可能。
将来について両親や家族からのプレッシャーは一切なかったというピエールさんは、入社当時の決断についてこう語ります。
「子どもの頃から、父が毎日工房に行って職人たちと働く姿を見てきたので、仕事の大変さというのはわかっていました。もちろんトランク職人に求められる精密さや、要求の高さがどれほどのものかということも。2004年に入社を決めたとき、いろいろな可能性があった中で私はあえて『アトリエから学びたい』と志願しました。それはなぜか。祖父や父がしていた仕事を自分もやりたかったというのもありますが、このサヴォアフェールというものが、結局のところアトリエからしか学べないということを理解していたからです。ルイ・ヴィトンのトランクがどのようにできているのか、我々の伝統や歴史がどこからきたのか──。すべての原点がそこにあるのです」。
ピエールさんが好きだというクーリエタイプのトランク。新作は、3代目ガストン-ルイ・ヴィトンの蒐集品から着想を得て、旅のステッカーが描かれている。「クーリエ・ロジン 95」(幅98×高さ45.5×マチ51センチ、参考商品)
顧客からの特注や、デザイナーの新作開発の際には、アーカイブの記録をチームと共有して仕事を進めるというピエールさん。創業家に生まれ、今ではメゾンの製造史を誰よりも熟知する存在ですが、「学びに終わりはない」と謙虚に語ります。
「3代目のガストンのおかげで、我々には非常に豊富なアーカイブが残されています。過去に何の製品が、どんな工程で作られていたのか。当時のテクニックと今とを比較して改善や開発をします。さらに、私のチームでは製品のガイドブックのようなものを作って製造ルールを記録しています。とりわけ新しいものを作るときは、それらを頼りにチームと対話を重ねます」。
ヘリテージをもとに未来の製品を作る、そこには伝統と革新のプロセスが欠かせません。
「シグニチャーが昔のままであることと同時に、未知の領域を開拓することが大切です。例えばトランクに用いるロック(錠前)は、かつては顧客のナンバーを手作業で刻印していましたが、2018年にできたアトリエでレーザー刻印を取り入れました。新技術で作業効率を上げながらも、ロックや刻印という伝統は変わらない。こうしたイノベーションは至るところにあります」。
映画『ダージリン急行』のトランクが復刻。左は「LV × ザ・ダージリン リミテッド ピラミッド アルゼール プレジデント」、右は「エレファンタジー トランク」(ともに参考商品)
「素材を手で扱う感覚や、職人技は決してなくならない。なぜならそれが “真の仕事” だからです」
一方でテクノロジーと手仕事の明確な違いについても強調します。
「先ほどお話ししたガイドブックの制作にもAIを使っていますし、テクノロジーは非常に便利なツールです。でもだからといってそれが私たちの仕事に代わることはありません。素材を手で扱う際の心地よさ、研ぎ澄まされる熟練の技、それらはまさに “真の仕事” であり、この先も貫かれると信じています」。
木材のコバに補強材を当てて等間隔に釘を打つ、フィルタージュという伝統技法。
最後に、170年以上変わらないことは何かとの問いには笑顔で答えてくれました。
「家族感ということでしょうか。現在フランス国内に19の工房がありますが、みんなが繫がり、行き来する、大きな家族のようです。特に職人は店舗に行くことが大好きですね。昔から、仕事の内容が異なっていても一体感があり、それは会社の規模が大きくなった今も変わりません」。
積み上げられた大小さまざまなトランクが旅情を誘う。/すべてルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトン クライアントサービス)
(次回へ続く。
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