ファッション

林真理子さんが語る、森英恵さんとのパリの思い出。ドレスを仕立ててもらった日のことも

2026.06.16

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〔特集〕生誕100年記念企画 森 英恵──美しく生きて 若くして才能を開花させ、東京、ニューヨーク、パリを拠点に活躍した、ファッションデザイナーの森 英恵さん。愛する家族と仕事のため、全力で生き抜いた森さんは、亡くなった今もなお、後をゆく私たちの道を照らしてくれる存在です。生誕100年記念の大回顧展も開催中の今、その凜として美しい人生を振り返ります。

特集「生誕100年記念企画 森 英恵──美しく生きて」の記事一覧はこちら>>>
絹のジャンプスーツとカフタン(ガウン)からなる華やかなアンサンブルは通称「菊のパジャマドレス」。20世紀を代表する写真家、リチャード・アヴェドンの撮影で『ヴォーグ』に掲載され、評判となった。1966年制作。*本企画掲載のドレスが見られる大回顧展の詳細は記事末に。

絹のジャンプスーツとカフタン(ガウン)からなる華やかなアンサンブルは通称「菊のパジャマドレス」。20世紀を代表する写真家、リチャード・アヴェドンの撮影で『ヴォーグ』に掲載され、評判となった。1966年制作。*本企画掲載のドレスが見られる大回顧展の詳細は記事末に。

「自分の意志で、やりたいことに向かって、ずっと走ってきた」森 英恵 2000年頃、オートクチュールコレクションで使う布地を真剣な眼差しで吟味する森さん。

「自分の意志で、やりたいことに向かって、ずっと走ってきた」
森 英恵 2000年頃、オートクチュールコレクションで使う布地を真剣な眼差しで吟味する森さん。

パリの思い出 ──林 真理子

あたり前といえばあたり前のことであるが、森先生との思い出はいつもパリがからんでいる。

初めてお会いしたのは、今はもうないシャンゼリゼにあったレストランサントリー。そこでご主人と食事をしていらした。ご挨拶に伺うと、


「パリコレを見にいらしたの」

と声をかけてくださった。実は『装苑』という雑誌でパリコレクションを取材するため二週間滞在していたのだ。今から四十年ぐらい前になるだろうか。十ほどのコレクションを見たが、森先生のエレガントなドレスの数々は今も記憶にある。先生はパリのオートクチュール組合のただ一人の日本人であり、そのことはどれほど誇らしかったか。

右2点は1990年春夏、左は1982年春夏のパリオートクチュールコレクションで発表された蝶モチーフのイヴニングドレス。アメリカ進出から約10年間、周囲の期待に応えながら、蝶をデザインし続けた森さんは疲れを感じ、パリでは一時期封印。しかし、故郷の里山を飛び交う蝶は森さんにとって希望の象徴でもあり、再び向き合うようになったという。

右2点は1990年春夏、左は1982年春夏のパリオートクチュールコレクションで発表された蝶モチーフのイヴニングドレス。アメリカ進出から約10年間、周囲の期待に応えながら、蝶をデザインし続けた森さんは疲れを感じ、パリでは一時期封印。しかし、故郷の里山を飛び交う蝶は森さんにとって希望の象徴でもあり、再び向き合うようになったという。

そしてその時、ウェディングドレスをつくってもらうなら、森先生、と秘かに決めていたのである。その夢がかなった十年後、LVMH主催でパリのベルサイユ宮殿のディナーに招かれることになった。その時のドレスをスタイリストに相談したところ、

「世界のプロトコールに通じている森さんにつくっていただくのがいちばんいい」

という結論となり、森先生にお願いした。その真紅のドレスは背中に大きなリボンがついている素晴らしいデザインであった。ベルサイユの庭をそぞろ歩いたところ、私の友人は出席者から、

「彼女のあのドレスは、誰がつくったのか」

 と質問されたそうだ。

今でも多くの人が憶えていることだろう、表参道のランドマークであったハナヱ・モリビル。そこのアトリエで先生にピンをうってもらうのはかなり緊張を強いられることであった。白いスモックに身をつつんだ先生は、いつもとは違うとても厳しい顔つきでいらした。

が、今思うと先生のああした表情を見られた私は、なんと贅沢で幸せなことだったのか。

森 英恵(もり・はなえ)
1926年島根県生まれ。1951年にアトリエと店舗を兼ねたスタジオ「ひよしや」を設立。1954年より数百本もの映画の衣裳をデザイン。1965年にニューヨークで海外初のショーを成功。1977年に東洋人で初めてパリ・オートクチュール組合の正会員となり、2004年まで毎シーズン新作を発表。プレタポルテや制服、ライフスタイル関連商品のデザインも手がけた。2022年に永眠。

林 真理子(はやし・まりこ)
1954年山梨県生まれ。コピーライターを経て作家に。1982年にエッセイ『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が処女作にしてベストセラーに。「最終便に間に合えば」「京都まで」で第94回直木賞受賞。2018年紫綬褒章受章。2020年第68回菊池寛賞受賞。最新刊は『マリコは国宝を観た!!』。

生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ

森さんの生誕100年を記念した大回顧展が国立新美術館で開催中です。圧巻の展示400点が語る、偉大なるデザイナーの美意識とものづくりのすべてをご覧ください。

会期 : ~2026年7月6日(月)
会場 : 国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
休館日 : 毎週火曜
開館時間 : 10時~18時(毎週金・土曜は20時まで。入場は閉館30分前まで)
お問い合わせ(電話):050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://morihanae100.jp

(次回へ続く。この特集の一覧>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2026年07月号

家庭画報 2026年07月号

撮影/鍋島徳恭 畠山直哉 取材・文/清水千佳子 協力/森英恵事務所

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