ファッション
2022/10/24
毎週月曜日に配信している連載「迷い世代の服選び」。毎月の第4回は、スタイリストおおさわ千春さん流の “物との付き合い方”から、より豊かにファッションを楽しむヒントをお届け。今回は、「CHIE IMAI」によるファーのリメイクサービスを紹介します。前回の記事を読む>>
皆さんは「これだけはどうしても手放せない!」という洋服をお持ちでしょうか。若い頃にやっとの思いで買ったもの、家族から譲り受けたもの……、1着の洋服にもさまざまな思いや記憶が詰まっていますよね。
実は先日、思わず頭を抱えてしまう出来事がありました。それはとても大事にしていたミンクのファージャケットをクローゼットから出した時のこと。なんと片方の袖が大きく色落ちしていたのです! ガーメントカバーの脇に透明になった部分があり、そこから光が入っていたことが原因のようでした。大切に保管していたつもりが、ショックでした(涙)。
十数年前、おおさわさんがショップで出会い一目ぼれした「アルベルタ・フェレッティ」のジャケット。その日は決断できなかったものの、帰宅後も頭から離れず、一晩考えた末に買った思い出の1着。後ろから見ると右袖部分が色落ちしてしまっている。
このジャケットは私にとってまさに「手放せない洋服」のひとつ。今見ても古さを感じさせないデザインが気に入っていて、まだまだ着たいと思っていました。
色落ちした部分をなんとか補色できないかと、お直し屋さんに持ち込んだものの断られ、最後の頼みの綱としてファーを得意とするブランド「CHIE IMAI」に相談。やはり染め直しは難しかったのですが、そこで同ブランドがリメイクサービスを手がけていることを知ったのでした。
「CHIE IMAI」は、日本における高級ファー・レザーブランドのパイオニア的存在であり、1978年の誕生以来、最高級の品質と、細かく裁断したファーをモザイク状に丹念に繋ぎ合わせる「モザイク ドゥ チエ」をはじめとした独創的なデザインで、現在はファーのみならず世界的な評価を受けているラグジュアリーブランド。
コレクションやショーを昔からチェックしている私が「CHIE IMAI」に抱く印象は、上質な素材と高い技術力を駆使し、実直に丁寧に、ファーを使ったものづくりを続けてきたブランドだということ。
そんな「CHIE IMAI」が手がけるリメイクサービス……。一言にリメイクといっても単にサイズを変えたり、穴を繕ったりするようなお直しとは違い、それはさながらオートクチュールで自分だけの服を作るようなクオリティなのです。
「CHIE IMAI」のデザイナー・今井千恵さん。ファーやレザーに関する豊富な知識と経験から、依頼者一人ひとりに合ったリメイク方法を提案。「服づくりの知識にとどまらずケア方法などについても非常にお詳しい、物に対する愛情の深い方です」
私のジャケットのように致命的なトラブルがなくとも、体型の変化やトレンドの移り変わりの中で、着る機会が減ってしまう服もありますよね。リメイクによって、人生を共に歩んできた相棒を“これからの自分”にとって心地よいものによみがえらせることができたら素敵なことだと思います。
また、本来ファーやレザーはきちんとお手入れすることでいつまでも美しく着られるもの。最終的には土に還るという意味でも、地球環境への負担が少ない素材です。大切な服を、形を変えながら長く愛用し続けることは、サステナビリティという視点でも豊かなライフスタイルなのではないでしょうか。
元のジャケットの状態やおおさわさんのイメージに合わせて、デザイナー自ら描き起こした3つのデザイン画。打ち合わせを経て、中央のデザインに仕立て直すことに。
実際のリメイク工程をご紹介しましょう。まずリメイクを行うアイテムをデザイナーと共に確認し、どのようにリメイクしたいかや、どこまでの変更が可能かといった点をすり合わせます。それをもとに2週間以内にデザイン案が起こされ、最終的なデザインを決定。費用の見積もりが出て、採寸へと進みます。
次に、より具体的にデザインやサイズ感をチェックするため、厚手のコットン地でトワルを作製します。実際に袖を通しての仮縫いと細部の調整をし、アトリエの職人による仕立て直し作業へ。デザイナー・今井千恵さんが、デザインの相談から採寸や仮縫いまでを直接監修してくれたことで、安心してお任せすることができました。
採寸の様子。「仕事柄、普段から多くの洋服を目にしますが、1着の服を作るのに携わる人たちや使われる素材に改めて思いをはせる時間でもありました」
デザインの打ち合わせや採寸、トワルのチェックの際はブティックへ足を運ぶ必要があり、スケジュールの調整に時間がかかる場合もありますが、アトリエへ送られてから完成までは3か月ほど。工程全体では半年弱ほどになる場合が多いそうです。
私のケースでは、ファーを畝状に繋いだジャケットを一度バラバラに解体し、使えるパーツを再構成して新たな1着を仕立てることに。肩が大きく開いたデザインゆえ、なで肩の私が着るとずり落ちやすかったという難点も併せて直していただきました。
トワルからは、袖の長さや首元のデザインを大胆に変更することがうかがえる。
ずっとそばに置いておきたい洋服の一つだったファージャケット。思わぬトラブルで台無しにしてしまった際はとても悲しかったのですが、完成品が届いたときは、そんな心までもリメイクしてもらったような気持ちでした。
新たに生まれ変わった姿は後編でご紹介しますので、ぜひお楽しみに!
後編は10月31日(月)公開予定(後編の記事を読む>>>)
●問い合わせ先
CHIE IMAI 帝国ホテル店
電話 03-3503-6344
スタイリスト。
雑誌のほか、映画の衣装デザインや女優のスタイリングなどを幅広く手掛ける。着る人に合わせた的確なスタイリングやアドバイスは、多くの女優からも信頼を得ている。
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表示価格はすべて税込みです。
撮影/大見謝星斗(トワルを除く静物)
© SEKAI BUNKA PUBLISHING INC. All rights reserved.
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