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天野惠子先生にとって「終活」とは、残された人生を自分らしく生きるための準備

2026.06.08

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イラスト/上大岡トメ

〔連載〕80代、現役女医の一本道 75歳を過ぎると、老いに伴う変化が体のあちこちに現れます。世間ではとかく「終活」という言葉が使われますが、私の場合、人生の終わりに備えるという意識よりも、残された日々を自分らしく生きるための準備ととらえています。私が実践してきた、住まい、健康、財産、心身の整え方をお伝えします。

第11回 私の人生のしまい方

撮影/鍋島徳恭

天野惠子(あまの・けいこ)
1942年生まれ。内科医。医学博士。東京大学医学部卒業。静風荘病院特別顧問。日本性差医学・医療学会理事。NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。性差を考慮した女性医療の実践の場としての「女性外来」を日本に根づかせた伝説の医師として知られる。83歳の現在も埼玉県・静風荘病院の女性外来で診療にあたっている。53歳、52歳、45歳の3女の母。

75歳、後期高齢者になって老いを痛感

75歳の誕生日を機に、国立がん研究センターで検診を受け、全身をくまなく調べてもらいました。幸い、がんの所見はありませんでした。「あと5年くらいは、つつがなく暮らせるだろう」──正直、そんな安堵感がありました。

一方で、「血圧と血糖値がやや高め」と指摘されました。女性は閉経後、血圧・血糖値・コレステロール値が上がりやすくなることは医学的にもよく知られていますから、それほど気にすることはありません。問題は、これらが悪化しても自覚症状がほとんどない点です。気づいたときには、糖尿病や心疾患がかなり進行しているケースも少なくありません。

そこで、予防策としてできることを探し、生活に取り入れたのが、野菜スープです。これは、緑黄色野菜の抗酸化作用がふんだんに摂取できる特製スープ。調味料は一切使いません。これを毎日続けた結果、約3か月で血圧や血糖値が驚くほど改善しました。


ただし、数値がよくなっても、老いそのものは静かに進んでいたのです。

この頃、半年で6キロも体重が落ち、筋肉量の減少を痛感しました。また、短期間に3度も虫垂炎を起こすなど、免疫力が著しく低下していました。長年問題なく常用していた漢方薬の激しい副作用に苦しむこともありました。

振り返れば、50歳の閉経時、65歳で前期高齢者に入った頃にも、記憶力や集中力の低下を感じていました。75歳の後期高齢者になると、外見の変化が明らかになり、80歳では肝代謝の低下によって、漢方薬が原因で血圧が200近くまで上昇するという経験もしました。

こうした連続的な加齢現象を経て、私は身をもって、「人には必ずエンディングがある」という事実を、冷静に受け止めるようになりました。そこからいわば「人生のしまい方」を意識し始めたのです。

いわゆる「終活」とは異なる備え方

私がたどり着いた結論は、とてもシンプルです。

「終活」とは、人生を終えるための備えではありません。今このときを、安心して、自分らしく主体的に生きるための生活のケア。定期的に点検し、修正し、よりよくしていく工夫なのです。

厚生労働省の調査でも、女性の平均寿命は87歳前後です。75歳は「終わり」ではなく、まだ10年以上続く可能性のある人生の途上なのです。だからこそ、受け身ではなく、自分で考え、選び、整える必要があるのです。

私がまず行ったのは、自宅の建て替えでした。

結婚直後に購入した建て売り住宅は老朽化が進み、災害への不安もありました。一人暮らしの今、大きな家は不要です。耐震性が高く、コンパクトで動線のよい住まいに建て替えました。

家具は置かず、間仕切りのない広い空間を生活の中心に。衣服などの物は「収納スペースに収まる分しか持たない」と決めました。家具の横転や、物につまずいての転倒は、高齢者のけがの原因として非常に多いからです。階段は両側に手すりを設置し、万一脳梗塞などで体の片側に麻痺が残っても対応できるようにしました。

財産整理は「わかりやすさ」がすべて

次に取り組んだのが、財産の整理です。私が最優先したのは、「残された人が一目でわかる状態にしておくこと」でした。

主たる銀行は〇〇銀行、投資信託は〇〇証券、遺言書は〇〇信託銀行というように、口座を一本化し、「ここに連絡すればすべてわかる」状態にしました。

遺言書作成では、土地・建物・金融資産・金の有無まで詳細にリスト化し、公証役場で正式に承認してもらいました。そのための費用は決して安くありませんが、更新は電話ですみ、内容も何度でも見直せます。「完璧に決めきらなくていい」という柔軟さは、長い老後を考えるうえで重要だと感じています。

墓についても、元気なうちに決めておく必要があります。最近は樹木葬を選択する人が5割とも聞きますが、私は自分の祖先との繫がりを大切にしたいのでそこまで割り切れません。とはいえ、管理費や通いやすさなど現実面も考慮して、改葬や転籍も含め、さまざまな選択肢を検討しているところです。

父は98歳で亡くなりましたが、父の終活は、私に多くのことを教えてくれました。几帳面な性格の父は、資産を自筆で整理し、司法書士の助言を得たうえで遺言書を預託していました。そのおかげで、相続は驚くほど円満に進みました。残された人のことを思いやり、準備万端にしておくことで、安心して最期を迎えることができます。

半生を振り返り、脳を活性化

家の建て替えを機に、大量の本や思い出の品を処分しました。必要な本は国立国会図書館で読めますし、10年も前の本は情報も古くなるので残していても仕方がありません。自著や編集にかかわった本だけを、「子どもが目にするかもしれない」という理由で残しました。

正直、「捨てなければよかった」と思う物もあります。でも、「ないならないで、それもいい」と割り切ることも大切。今後は、物そのものよりも、記録として残すことを重視しています。

「来し方を振り返り、味わうことこそ、老いの愉しみ」

イラスト/上大岡トメ

イラスト/上大岡トメ


最近皆さんにおすすめしているのが、質問の答えを書き込んでいくだけで自分史ができる『思い出ノート』(毎日新聞社/(公財)認知症予防財団監修)です。こうしたツールを使って自分の半生を振り返ることは、脳の活性化にもなりますし、子どもに自分のことを知ってもらうよい機会になると思います。

人としての能力を保ち日々きびきびと過ごしたい

「人に迷惑をかけない」ために最も重要なのは、資産よりも、むしろ健康管理でしょう。理想は、前日まで元気な「ピンピンコロリ」といわれますが、そうそう思いどおりにはいかないもの。病気にならないために、「主治医は自分自身」という意識で、日々の生活管理を徹底しましょう。体の小さな異変に早めに気づき、食事や生活を修正すること。認知症予防には、読書や会話、そして難聴対策が欠かせません。聞こえにくさを自覚したら早めに補聴器を使いましょう。

人としての能力を最後まで保ち、きびきびと明るく過ごすこと。75歳のときに心に決めたこのシンプルな目標は、83歳の今も現役で生きる私を支え続けています。

◆今月の生きるヒント◆

人としての能力を保ちながら明るく自分らしく主体的に過ごす。身辺を日々点検し、万事整えることこそ本当の「終活」。



天野医師の好評既刊 天野医師の 好評既刊『81歳、現役女医の転ばぬ先の知恵』『81歳、現役女医の転ばぬ先の知恵』
「100歳現役」を目指し、75歳から始めたセルフケアを収載。
1765円 世界文化社刊

連載「80代、現役女医の一本道」の記事一覧はこちら>>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2026年06月号

家庭画報 2026年06月号

構成/石井栄子

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