仕事と育児の両立を叶えて[三姉妹インタビュー]
母の背中に学んだ私たちの生き方
吉川英治文化賞受賞を祝って、三姉妹が久しぶりに顔を合わせました。語っていただいたのは、母の思い出、母への思い。仕事第一を貫きながら子どもたちに深い愛情を注いだ母の生き方そのものが、素晴らしい教育でした。
自己肯定感と自信、自然に学ぶ姿を教えられた
──それぞれに仕事と育児を両立しておられる皆さん。考え方や生き方においてお母様の影響を受けたと感じることはありますか?馨南子さん 私の専門は少子化問題です。若者流出に悩む地方で講演する機会も多いのですが、特に地方では「男性のサブ的な役割を担う女性」としての生き方を無意識に受け入れる女性は少なくありません。なかには、自己肯定感や自尊感情の低さからくる自身の「ガラスの天井」に苦しんでいる方も。私はサブ的な生き方をよしとしたことがないのですが、それは母の背中があったからかもしれません。自分を過小評価して委縮したり何かを諦めたりすることは、一度きりの人生において、勿体なさすぎると考えています。
「母は女性の生き方のロールモデル。だから私は自分の力を正当に評価し、仕事に誇りが持てるのです」長女・馨南子さん

長女・馨南子さん(53歳)ニッセイ基礎研究所生活研究部人口動態シニアリサーチャー。1971年生まれ。東京大学経済学部卒業。少子化問題の専門家。
史子さん 私が母からもらったのは自信。何があっても絶対に揺るがない自信です。母は私にいつも「あなたはすごい。あなたには私にない長所がたくさんある」といってくれました。母に90の強みがあって私に10の強みがあるとしたら、10を見てほめてくれるのです。たとえばバランス力。「バランスがいいのがあなたの素晴らしさ」といわれ続けて自信がつき、伸ばせたことは、今の経営の仕事に確実に生きていると思います。
「何があっても揺るぐことのない絶対的な自信を母からもらいました。それを我が子にも伝えていきたい」次女・史子さん

次女・史子さん(52歳)デロイトトーマツT&L合同会社代表執行役。1973年生まれ。イギリスに留学しドイツの税理士資格を取得。東京大学法学部卒業。
京子さん 私が子どもの頃から母は常に勉強していました。今もそうです。なので私は、目標に向かって一生懸命勉強するのは人として当たり前で、何も特別なことではないと思えるんです。私が紆余曲折の末に「そうだ、弁護士になろう!」と思い立ち、法科大学院で司法試験の勉強を始めたのは36歳のときでした。まったく未知の分野だったので非常に苦労しましたが、受かるまで頑張ることができたのは、学ぶ姿を見せ続けてくれた母のおかげだと思います。
「母は本当に勉強家。目標に向かって、一生学び続けることは当たり前と教わりました」三女・京子さん

三女・京子さん(45歳)弁護士。1980年生まれ。千葉大学理学部卒業、同大学院修了。10年間の専業主婦期間中に一念発起し、42歳で司法試験に合格。
すごさをわかっていない。母は“天才”かもしれない
── 一般的な母親像とは少しかけ離れているようにも思います。史子さん いえいえ、私たちにとってはあの母が“普通の母親”。大学時代に友人の家に遊びに行ったとき、お母さんが雑誌を見ながら映画の話をしていたのがとっても斬新でした。母は家で論文しか読んでいませんでしたから(笑)。身内がいうのもおかしいですが、母はある意味、天才だと思います。周りが素晴らしいと評価することをなんとも思わず、息を吸うように自然にやってのけるという意味の天才。母にとっては数々の業績も努力してきたことの当然の結果であり、自分の強みとは捉えていないのではないか──。それほど母にとって医師という仕事は自然なのだと思う。
久しぶりの再会に、思い出話やお互いの近況報告で大盛り上がりの三姉妹。お孫さんは6人いらっしゃるとのこと。天野医師が深く尊敬され、愛されている存在であるという一面に触れた取材でした。
仕事と育児の両立には夫のサポートが欠かせない
──お母様は、家政婦さんを頼んで仕事第一を貫いたそうですね。馨南子さん 私はそんな母の生き方も知っているため、子どもに物理的に多くかかわることだけが、愛情や「母として正しい姿」ともいえないことを感じ取りました。多様な親の形があってこそ、子どもたちの多様な輝きが生まれるのではないでしょうか。
京子さん そう、料理や掃除洗濯が得意な男性も、仕事が向いている女性もいていいわけで。──そういえば母のお弁当はすごかったね(笑)。毎日作ってくれただけでも頭が下がりますが、忙しすぎておかずを詰めるとき汁気をきる時間がない。なすの煮びたしが汁ごと入っていてご飯が紫色だったときは衝撃的でした(笑)。
馨南子さん ただ一つ、夫選びに関しては、いい意味で反面教師でした(笑)。彼女の生き方を尊重し、サポートしようと思える人が合っていたと思いますが、時代的アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)から母はそうしなかった。私は私の生き方を尊重し、家庭のあり方はその延長事と考えられる夫を選びました。
史子さん 京子さん 私も。
馨南子さん 私たちはみんな、積極的にサポートしてくれる夫のおかげで、仕事と育児を両立できているよね。そしてなぜか3人とも、相手は年下です(笑)。
愛情深くておおらかな象?強くて賢い牝ライオン?
──最後に、お母様の最も尊敬できるところを聞かせてください。史子さん 70年もの長期にわたるプロジェクト遂行能力の高さ、ですね。小学生のときに医者になる目標を立て、東大医学部に入って医者になり、数々の実績を積み重ねてきました。そして今なお“天野惠子、日本一の医師になる”という一大プロジェクトは続行中。本当に素晴らしいことです。
京子さん 私は、母を動物に譬(たと)えると象だと思います。愛情深くて包容力にあふれた存在。それが多くの患者さんが母の診察を受けに来られる理由かもしれません。
馨南子さん 私のイメージは牝ライオン。ライオンの牝は牡と違い、捕食対象動物の子を捕食対象と見なさない姿が確認されています。まるで自然界のサステナビリティを内包したかのような生き物。女性外来を一途に広め、女性の健康を支えてきた彼女は、人口学的に見て「人類の持続可能性」の求道者そのものだと思います。
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