〔特集〕ツボ、鍼灸、漢方薬、薬膳のチカラを解明 今、東洋医学の知恵に学ぶ 気・血・水をはじめ独自の概念のもと、鍼灸や漢方薬、薬膳などを用いて治療を行ってきた東洋医学は、長い間「よくわからないけど効く」といった評価を受けてきました。ところが近年、西洋医学の視点から東洋医学が効くメカニズムを解明する研究が盛んです。東洋医学の最新の動きと利点を押さえたうえで、日常で賢く活用する方法をご紹介します。
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世界が注目する
「鍼灸」と「漢方薬」のメカニズム研究
[注目研究1]
鍼灸による刺激が脳の機能に作用して、うつ病の症状が改善
うつ病患者のうち、3~4割は抗うつ薬では十分に改善しないことがわかっていて新たな治療の選択肢が求められています。こうした中、鍼灸への可能性が期待されています。なかでも、世界が注目したのが英国ヨーク大学のマクファーソン教授らのグループが行った大規模臨床試験です(下表参照)。
■臨床試験でわかったうつ病への鍼灸治療効果
MacPherson,H.et al.Acupuncture and Counselling for Depression in Primary Care:A Randomised Controlled Trial.PLoS Med 10(9):e1001518(2013)より一部改変
〈臨床試験の方法と結果〉うつ病患者750名余りを3つの治療グループにランダムに分け、週1回の治療を最大12回実施。3か月後の治療が終了した時点での評価は鍼治療を加えたグループの改善度が最も高く、その後も治療効果が継続した。
〈効くメカニズム〉鍼灸の刺激が脳のセロトニンやストレスホルモンの分泌などに関係する神経を調節し、脳の機能が改善される。
この臨床試験は、刺激するツボを限定せず、それぞれの鍼灸師が日常的に行っている方法、つまり一般的な鍼灸治療を評価しています。研究の結果、うつ病の通常治療に鍼治療を併用すると、改善効果が高くなることが示されました。
この研究が大きな契機となり、世界中で精神疾患に対する鍼灸の研究が盛んになり、カナダでは2023年に改訂した「気分障害・不安障害診療ガイドライン」において鍼灸が補完代替医療の治療法として推奨されています。日本でも非薬物療法の一つとして鍼灸が新たな選択肢になることが期待されます。
[注目研究2]
漢方薬が腸内細菌の “上質なエサ” になり、免疫機能を高める
大建中湯(だいけんちゅうとう)は抗炎症作用を持つ乾姜(かんきょう)、腸の機能を高める人参(にんじん)、腸の血流をよくする山椒(さんしょう)など4種類の生薬が含まれる漢方薬です。便秘や下痢、腸炎の改善に処方されるだけでなく、腸の手術後に起こる腸閉塞を予防するために外科でも積極的に使用されています。
理化学研究所生命医科学研究センターの佐藤尚子博士らのグループではマウスを使った実験で、大建中湯が腸内細菌を介して腸炎を抑制するメカニズムを突き止めました。(下図参照)。
■腸内細菌に作用する大建中湯
理化学研究所HP「免疫研究から漢方薬の効き目を解明」(https://www.riken.jp/pr/closeup/2022/20220822_1/index.html)より一部改変
〈腸内の状態〉腸炎では、腸内細菌叢のバランスが崩れ、腸を保護する粘膜バリアもダメージを受けている。
〈効くメカニズム〉腸炎に大建中湯を投与すると、それをエサにラクトバチルス菌が増え(①)、プロピオン酸を産生する(②)。プロピオン酸が上皮細胞を通過してILC3細胞に結合する(③)。ICL3が腸の粘膜バリア修復を促すたんぱく質のIL-22を多量に放出し(④)、上皮細胞が受け取ることで腸炎が改善する。
この中で重要な役割を担う善玉菌のラクトバチルス菌にとって、大建中湯は “上質なエサ” となっていたのです。
この研究の背景にあるのは、近年急速に発展する解析技術の進歩です。腸内細菌や免疫細胞の詳細な活動を基に、漢方薬の知られざるメカニズムが続々と解明されているのです。現在も、こうしたアプローチによる漢方薬の新たな効果やメカニズムの研究が進んでいます。
(次回に続く。
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