新世代の鍼灸師に訊く 第19回（前編）鍼灸院は「未病を予防する」ことから「病気を改善する」ことまで守備範囲が広く、身近な健康アドバイザーとしてもっと活用したい医療施設の一つです。
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更年期から起こりやすいトラブルの予防法・解決法「線維筋痛症」
禹洪哲先生（久心康）
久心康 院長 禹洪哲（う・こうてつ）先生 1990年、中国吉林省生まれ。歯科大学在学中に中医師である伯母のすすめで中医学病院を見学し、東洋医学に関心を持つ。日本に憧れて20歳のときに来日。東洋鍼灸専門学校に入学。鍼灸師の資格取得後、尊敬する賀普仁（がふじん）先生の中医学治療院（北京市）で1年間研修を受ける。2017年開業し池袋内科と緊密に連携しながら痛みに対する統合医療に取り組む。
「心身一元論」の観点から痛みの原因を追究し、全人的医療を軸に心・体・環境をよい方向に導く
禹洪哲先生が院長を務める鍼灸専門治療院「久心康」には線維筋痛症に苦しむ患者さんたちが大勢やって来ます。ここは日本線維筋痛症・慢性痛学会がホームページを通して情報提供をしている数少ない鍼灸院の一つで、その情報を頼りに藁にもすがる思いで訪れる人も少なくありません。
「2017年から線維筋痛症や膠原病、関節リウマチなどを専門とする西洋医学の医師たちと本格的にタッグを組んで統合医療に取り組んでいます」と禹先生は説明します。
スタッフと。
全人的医療を実践するうえで丁寧な問診を最も重視する
200万人以上いると推定される線維筋痛症の患者は女性が圧倒的に多く、その中心は40歳代以上の中高年者です。全身の広い範囲に及ぶ痛みが3か月以上続いたり再発を繰り返したりする慢性の病気で、強いこわばりや激しい疲労感、不眠、頭痛、うつ、物忘れなど多彩な症状を伴います。
「西洋医学では原因がよくわかっていないため、連携医たちは東洋医学の可能性に期待してくれています。私も開業するまで連携医のもとで診療していたので、西洋医学的見地からもこの疾患を理解することができました」。
西洋医学が優先される場合は隣接する池袋内科に紹介。
来る日も来る日も線維筋痛症の鍼灸治療と向き合う中で、治癒を目指すには痛みを軽減するだけでは不十分であることを禹先生は痛感したといいます。
「東洋医学には心身一元論という考え方があります。心と体は一つであり、体の苦しみは心に、心のつらさは体に影響します。線維筋痛症はまさしく心身一元論の観点からアプローチすべき疾患で、その治療においては全人的医療が求められます」。
初診時の問診では1時間30分から2時間かける。丁寧なやりとりを通して自分の生活パターンに気づき、改善点を見出す人もいる。
全人的医療を実践するうえで禹先生は問診を最も重視しています。生まれたときから現在までの人生歴を詳しく聞き取り、体質や気質、嗜好、生活パターンなどを把握するとともに線維筋痛症を引き起こしている原因を探っていきます。
「強いストレスや慢性疲労など心身に大きなダメージを受けた後に発症しやすいのが特徴です。体が弱ったことでスポーツや事故による古傷が痛みだす場合も少なくありません。心の問題とも密接につながっており、厳しい親に育てられたことで大人になっても常に緊張を強いられる心理状態になっていて、それが全身の痛みとして表れていることもあります」。
よい生活習慣に変われるようにその人に合った養生法を助言
原因を見定めた後、禹先生は東洋医学の思想と理論をベースに治療を施していきます。例えば、古傷の場合は瘀血（おけつ）（血液の流れが滞っている状態）が痛みの原因になっているため、古傷を鍼で刺激することで毛細血管の再生を促し、血液の流れをよくします。
疼痛緩和に高い効果がある火鍼（かしん）を使用する独特の治療を行う。
また、原因にかかわらず線維筋痛症の人の大半は体が冷えているので灸を多用して温めます。「生命力を補充する“後天（こうてん）の本（もと）”である胃腸が冷えるとほかの臓器にも悪影響を及ぼし、免疫力も低下するため、特に胃腸を冷やさない、あるいは温めることが大切です」。
灸は痛みで弱った体の機能を補ったり体力をつけたりすることにも効果が高く、積極的に活用しています。
鍼と灸の効果を同時に得られる灸頭鍼（きゅうとうしん）を活用することも多い。
「よい生活習慣を身につけてもらうことが重要なので、その人に合った養生法（食養生、運動など）もアドバイスします」。
例えば、運動習慣のある人のほうが鍼灸治療の効果が高く、早く治るため、痛みが緩和されて体を動かせるようになったらスクワットやウォーキングなど軽い運動を継続して行ってもらいます。食養生では果物、生野菜、乳製品、パンなどの体を冷やす食べ物を控えるよう指導します。そして、心の持ちようについても自分にとって心地よい状態や環境を最優先するよう助言します。
治療後に体質に合わせた薬茶を提供し体質改善と治療効果の向上を図る。
「3～5年かけて心と体と環境をよい方向に導いていくことで、患者さんは線維筋痛症から解放されていきます。薬物や鍼灸だけに頼らないサポートこそが、私の目指している全人的医療なのです」
診療案内
東京都豊島区西池袋1-6-1 ホテルメトロポリタン地下1階
TEL：03（5985）4428
診療時間／火曜～日曜9時30分～13時30分、15時～20時
休診日／月曜・祝日・木曜午前
診療費／初診料8000円、再診料6000円
https://www.kyushinkou.com/中国伝統ハーブ「ShizukuAR」東京都豊島区池袋本町4-1-1
TEL：03（6907）0083
https://shizukuar-hp.com/「ShizukuAR」では楽天ストアで禹先生のオーダーメイドブレンド茶を販売。
※次回へ続く。
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