【今月の解説者】
株式会社aba 代表取締役CEO
宇井吉美さん 
うい・よしみ 中学時代に祖母がうつ病になった経験から「介護の負担を減らしたい」とロボット開発者を志し、千葉工業大学に進学。在学中にabaを設立し、尿や便のにおいを検知する排泄センサー「ヘルプパッド(Helppad)」を開発・製品化。おむつ交換タイミングの最適化や排泄情報の蓄積・解析・活用によって介護する人・される人双方の負担軽減を目指す。一般社団法人日本ケアテック協会理事。
「におい」で尿と便を検知して知らせる「排泄センサー」おむつを開けなくても排泄状態がわかり、介護の負担を軽減
ケアテック製品を活用してより最適で心地よいケアを提供
生産年齢人口が減少する一方で、高齢化社会を背景に要介護者の割合は増加し続けることが予測されています。介護の需要と供給のバランスが崩れる中、不足するケアの担い手をサポートする手段として期待されているのがケアテック製品です。ケアテックとは「介護(ケア)」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語で、ICT、IoT、AIといった最先端技術を応用した製品やサービスのことをいいます。
こうしたケアテック製品の一つに排泄センサーがあります。「当社が15年の歳月をかけて開発と改良を重ねてきた排泄センサー『ヘルプパッド2』は、おむつの中に排泄された尿と便を人間の鼻のようににおいで嗅ぎ分け、介護者のスマートフォンなどに通知します(図参照)。
【図】尿や便のにおいを検知するヘルプパッド2の仕組みと特徴

取材およびaba社からの提供資料を参考に作成
おむつの中を定期的に確認しなくても排泄状態がわかる仕組みで、“おむつを開けずに中が見たい”という介護者の願いから生まれました」と開発者の宇井吉美さんは解説します。ヘルプパッド2をし、おむつ交換のタイミングがわかることで、不要な交換がなくなり、おむつの外に尿や便が漏れて要介護者の着衣やシーツなどを汚してしまうことも避けられます。
また、介護者の負担が大きく減るだけでなく、不要なおむつ交換で要介護者の睡眠を邪魔するようなことがなくなるほか、必要最低限のおむつ交換で済むため、要介護者の羞恥心や自尊心に配慮することにもつながっています。
近年、ケアテック業界に参入する企業は急増しており製品も多様化しています。半面、開発ではケアテック製品を利用する介護者、それを使ってケアされる要介護者、そして製品の導入を決める介護施設運営者の3者のニーズを満たす必要があり、製品化には手間と時間がかかります。
「作り手の強烈な介護体験が製品化の原動力になっていることも多く、それだけ思い入れのある“三方よし”のケアテック製品が開発・販売されているといえます」。
2027年4月から介護施設には生産性向上委員会の設置が義務付けられ、ケアテック製品の需要はさらに増します。
「介護保険制度を維持し、持続可能な介護現場にするうえでもケアテック製品への期待がさらに高まっています。介護業務の効率化や持続性への貢献だけでなく、ケアテック製品に囲まれることで介護する人・される人が温かい気持ちになれるような未来が訪れることを強く望んでいます」
・
連載「最先端医学 気になるキーワード」の記事一覧はこちら>>>