QOLを高めるがんサポーティブケア 第10回(前編)がん患者の約7割を占める高齢がん患者の特徴は個人差が大きいこと。「80歳以上だから」など高齢を理由に治療を諦める時代ではなくなっています。今号は高齢者が治療を選択する際の目標設定やポイントを中心に解説します。
高齢者のがん
[解説してくださる方]
福岡大学病院 医療情報部教授
吉田陽一郎先生

よしだ・よういちろう 1996年、産業医科大学医学部卒業。同大学病院第一外科などを経て2010年より福岡大学病院消化器外科に所属。23年より現職。消化器外科診療教授を兼務。専門は大腸がん。「高齢者がん診療ガイドライン」 作成委員、「高齢者機能評価に基づくがん治療方針最適化教育プロジェクト」 研究代表などを務める。
高齢者の若返り現象の影響でがん分野でも75歳以上が対象に
今や日本人の2人に1人ががんにかかる中、かかった人の内訳をみると患者の約7割を高齢者が占めています。「そもそもがんは高齢者がなりやすい病気なのです」と、高齢者のがん治療の最適化に取り組む吉田陽一郎先生は指摘します。
がんの発症メカニズムによると、細胞の遺伝子(DNA)が傷つくことで、細胞が正しく働くために必要な設計図のコピーミスが起こり、細胞がコントロールを失ってがん化します。「高齢になればなるほど設計図のコピーミスが起こりやすくなるうえに、正常に働かなくなった細胞を消滅させる役割を持つ免疫力も低下するなど、さまざまな要素が重なって、高齢者はがんにかかりやすくなっています」と吉田先生は説明します。
がん医療分野における高齢者の定義も、WHO(世界保健機関)に従って65歳以上と定められています。一方で、現代の高齢者は20年ほど前に比べて心身ともに5~10歳若返っていることがさまざまな調査から明らかになっています。そのため、最近では75歳以上を「高齢がん患者」としてとらえる傾向が強くなってきています。
個人差が大きいゆえに高齢を理由に治療を諦めることはない
高齢がん患者さんの特徴としては、がん以外にも生活習慣病をはじめ心疾患・脳血管疾患など、さまざまな慢性疾患を抱えていることが多く、常時服用している薬も多種類に及びます。また、心身の老化現象が進行し、低栄養状態からフレイル(虚弱状態)を引き起こしたり、認知機能や社会的経済的状況が制限されたりしていることも少なくありません(下表)。
個人差が大きいことが高齢者のがんの特徴
●高齢者の定義65歳以上
※最近は75歳以上を「高齢がん患者」としてとらえる傾向が強い
●高齢がん患者の特徴・余命が短い
※元気な人と状態の悪い人では生存期間に3倍以上の差がある
・複数の併存疾患を有している
・多種類の薬剤を服用している
・生理学的な機能が低下している(老化現象の進行)
※85歳以上では生理機能の低下によるフレイルが増加する
・低栄養状態になっている
・認知機能に制限がある
・社会的経済的に制限がある
『高齢者がん診療ガイドライン』『高齢者がん医療Q&A総論』(いずれも日本がんサポーティブケア学会編)、吉田陽一郎先生への取材を参考に作成
「しかしながら、これらの特徴は個人差が極めて大きいことがわかっています。同じ75歳でも自立して活動的に日常生活を営んでいる人もいれば、常に介護が必要な人もいます。また、高齢者ががんを発症すると余命は短いことが知られていますが、元気な人と状態の悪い人では生存期間に実に3倍以上の差があるのです」と吉田先生はその実像について解説します。
ゆえに、治療方針を決定する際には「何歳なのか」という暦年齢だけで判断することはできず、その人が「どのくらい元気に生活できているか」という指標が重要視されています。つまり「高齢だから」という理由で治療を諦めることはないのです。
(次回へ続く。)
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