QOLを高めるがんサポーティブケア 第8回(後編)がん薬物療法に伴う副作用に対処するための薬剤が開発されている一方で、対応しきれない副作用も少なくありません。このような難治性の副作用に対し、漢方薬による支持療法が取り組まれており、その有用性が期待されています。・
前回の記事はこちら→
漢方による苦痛の軽減
[解説してくださる方]
福井県済生会病院 内科顧問
金沢医科大学名誉教授
元雄良治先生

もとお・よしはる 1980年、東京医科歯科大学(現 東京科学大学)医学部卒業。金沢大学がん研究所腫瘍内科等を経て2005年、金沢医科大学腫瘍内科学主任教授に就任。がん薬物療法と漢方の二刀流で、がん治療にあたる。26年4月より現職。日本がんサポーティブケア学会漢方部会部会長。国際東洋医学会会長。
“心身一如”の概念に基づく漢方は精神症状にも有効
さらに、漢方の特徴として特筆されるのは“心にも効く”ことです。
「漢方は、心と体はお互いに強く影響し合う“心身一如”という概念に基づいた治療体系となっており、心の症状に効果がみられる漢方薬もわかっています。がんになると、診断の告知をはじめ、さまざまな場面で心が不安定になります。このようなとき、漢方が役立つことが多々あるので、体のつらさとともに心のつらさについても漢方治療を行ってくれる医師にぜひ伝えてください」と元雄先生はアドバイスします。
がんやがん治療に伴う精神症状として多くの人に起こるのは、抑うつ、不安、不眠、緊張・イライラの4つの症状です。抑うつと不安には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、不眠には加味帰脾湯(かみきひとう)、緊張・イライラには抑肝散(よくかんさん)といった具合に、それぞれの症状に対する漢方薬の基本処方はありますが、随伴する身体症状に応じてさまざまな漢方薬が使い分けられています(表)。
がん治療に伴う精神症状にも漢方アプローチが可能
●抑うつへの対応
●不安への対応
●不眠への対応
●緊張・イライラへの対応
『がんサポーティブケアのための漢方活用ガイド』
日本がんサポーティブケア学会監修・同漢方部会編(南山堂刊)を参考に作成
「漢方は、毎日の“食う・寝る・出す”(食事・睡眠・排泄)を整えること、すなわち身近な生活支援にも大いに活用できます」と元雄先生は提示します。
生活のベースを整えると心身の状態が安定するため、体重が増えたり、よく動けるようになって体力が戻ってきたり、気力が充実して治療への意欲が出てきたり、気持ちが明るくなって周囲とのコミュニケーションが円滑にとれるようになったりします。
「それはQOL(生活の質)が改善・維持・向上されるだけでなく、予定された治療を完遂することや患者自身の“治す力”を支えることに繫がり、生命予後にもよい影響をもたらします」(元雄先生)。
がんに詳しい漢方専門医が少数でも諦めないことが肝心
がん治療医の7~8割は漢方を用いる状況になったものの、その中で漢方薬を使い分けられる医師はごく限られているのが現状です。
「がん薬物療法と漢方の両方の治療法に詳しい医師は全国に10名余りしかいません。患者さんから漢方による支持療法を相談されても大半の医師は基本処方に止まります」と元雄先生は打ち明けます。
より効果の高い漢方治療を受けたいときは主治医に相談して漢方専門医に繫いでもらいます。または日本東洋医学会の一般向けサイトの中にある「漢方専門医の検索」を利用するのも一案です。西洋医学の分野を指定する検索項目で「がん薬物療法」を選択すると、元雄先生のように両方の治療法に詳しい医師の一覧が出てきます。
「がんと闘うためには“攻撃”と“防御”の両方の対策が必要です。すなわち、現代医学による標準治療でがんをやっつけるとともに防御を得意とする漢方を併用して心と体を守る。漢方には標準的な支持療法では対応しきれない心と体の症状に対処する方法があります。がんに詳しい漢方専門医が少なくても諦めないことが肝心です」と元雄先生はアドバイスします。
がん漢方に関する情報を知りたい
●日本東洋医学会
一般の方へ 漢方専門医の検索
https://www.jsom-member.jp/jsomWebMember/html/senmoni_kensaku_search.html※日本東洋医学会の一般向けのサイトでは漢方専門医を探すことができます。検索ページの冒頭に記載されている検索項目のうち「西洋医学の分野」の項で「がん薬物療法」を選択し、検索をかけると、がん漢方に詳しい専門医が見つかります。
・
連載「がんサポーティブケア」の記事一覧はこちら>>>