
40代から始める「大人の歯列矯正」(4) 最近よく聞くマウスピース矯正をはじめ、大人になってから歯列矯正をする人が増えています。美しい歯並びは笑顔に自信を与えるだけでなく、将来の健康を守ることにもつながります。本連載では、大人が歯列矯正を行うメリットや注意点、クリニック選びのポイントなどを歯科医師の福島一隆先生が詳しく解説します。連載一覧はこちら>>
前回記事では、ワイヤー矯正とマウスピース矯正それぞれの特徴や、子どもの矯正との違いについて話がありました。
マウスピース矯正が人気を集める大きな理由は、人に気づかれにくい点。また、ワイヤー矯正は痛いというイメージを持たれがちで、実際にマウスピース矯正のほうが治療初期の痛みや不快感が少ないといわれています。
しかし、だからといって「マウスピースならラクに矯正できる、と考えると失敗します」と福島先生はいいます。
「マウスピース矯正はワイヤーに比べて気軽なイメージがあるかもしれませんが、歯が予定通りに動かず余計なところが動いてしまうことがあるなど、かなり緻密に管理していく必要があります。40代なら1日に20時間以上は装着しないと歯が動きませんし、当然のことながら治療に応じた通院が必要になります。また、人によっては『ゴムかけ』といって、マウスピースの上から細いゴムを自分で装着することも。“マウスピースを入れて終わり”ではなく自分から積極的に取り組まないと、期待した成果が得にくくなります」
一方のワイヤー矯正なら“歯科医師におまかせ”できるかというと、そうではないといいます。
「ワイヤーを装着すると歯ブラシや歯間ブラシがやりづらくなるので、通常より歯みがきの時間がかかります。また、ワイヤー矯正でも自分でゴムかけを行うことはあります」(福島先生)
こうしたデメリットや手間を理解したうえで治療を始めることが、いずれのタイプの矯正治療でも成功の鍵になります。
「理想の未来を手に入れるためには、その過程のマイナス面を受け入れなければなりません。歯列矯正は時間も費用も手間もかかりますし、痛かったり面倒だったりもしますが、それでも人まかせにせず主体的に治療に取り組むこと。なりたい将来像をしっかりイメージして、そこに向けてこの数年はがんばるぞ、という気持ちを持つことが大事です。実際、そういうタイプの方のほうが治療はうまくいくように感じます」(福島先生)
また、福島先生は「仕上がりや治療期間、費用も含めて大きな決断になるので、1回の通院で安易に決めるべきではない」と話します。
「当院の場合は、初回の診察で患者さんの希望を伺ったら、2回目に歯を動かすシュミレーションを作成して患者さんと一緒に確認します。ご納得いただけたら口腔内の細かい検査をして、問題なければ治療を開始する流れです。治療をスタートするまでに最低でも2回は来院いただき、説明する時間をとっています。もちろん、シュミレーションをやり直したり疑問にお答えしたりして、さらに説明の回数を重ねることもあります」
初回の通院で契約や入金を促すクリニックは避けたほうがよい、とも。
「これは矯正治療に限った話ではありませんが、大がかりな治療ではさまざまな疑問が出てくるはずで、気になる点をすべて解消してから治療に臨むべきです。そうでないと、途中で治療がつらくなったり面倒になったりした際に、やめる言い訳ができてしまいます。せっかくお金と時間をかけて歯列矯正をするなら、最後までやり切るために不明点をなくして納得してから治療を始めましょう」(福島先生)
長期にわたって高額の費用をかけて行う治療では、ドクターやスタッフとの相性も重要です。技術力のある歯科医師を選ぶ必要がある一方、「矯正は患者と歯科医師とが共同で進めるプロジェクト。相性が悪いと治療に行かなくなってしまう可能性がある」と福島先生は指摘します。
「ドクターを100%好きになる必要はありませんが、“馬が合う”とでもいいいますか、技術とあわせて人柄が信頼でき、話しやすい相手を選んだほうが治療はうまくいくはずです」
また、細かな違いや変化に気づける繊細さも、歯科医師に求めたいポイントだとも。
「若い頃に抜歯矯正をした人で、年齢が上がると口元が引っ込みすぎて横顔が寂しい印象になることがあります。その場合は再矯正をして歯を少し前に出したほうがきれいに見えるのですが、そうした細やかな対応ができるかどうかもドクターによりけりです」(福島先生)
正しく美しい歯並びという“一生もの”の健康を手に入れるためには、主体性を持って治療に取り組む姿勢と、信頼して任せられるクリニックを選ぶことが必要です。
次回は、歯列矯正に必ずついて回る「後戻り」についてお話しします。
※歯列矯正の治療方針や適応、治療期間などは、歯並びや噛み合わせの状態、医師・クリニックの考え方によって異なります。詳しくは受診先でご相談ください。
福島一隆先生

ふくしま・かずたか グランプロデンタルクリニック銀座院長。東京医科歯科大学歯学部卒業後、勤務医として経験を積んだのち、1998年に葛西駅前歯科、2013年に現クリニックを開院。臨床の傍ら、ハーバード大学やニューヨーク大学等で噛み合わせやインプラント治療に関する研鑽を積む。「顎機能と噛み合わせの調和」を治療理念に掲げ、 口腔機能の維持・改善から健康寿命の延伸やウェルエイジングの達成を目指す。
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