【脳腸相関】
神経やホルモンなどを介し、腸は脳からの指令を受けるだけでなく、脳に情報を送っている
[解説してくださる方]
名古屋市立大学大学院医学研究科
共同研究教育センター助教
菊池志乃先生
きくち・しの 京都大学大学院医学研究科博士課程医学専攻修了。医学博士。同大学院同科特定助教を経て現職。専門は過敏性腸症候群と認知行動療法。2022年、過敏性腸症候群に対する集団認知行動療法の大規模ランダム化比較試験を日本で初めて実施し、有効性を示して評価される。現在も同疾患の新たな心理療法の臨床試験を継続中。京都大学大学院医学研究科・健康増進・行動学分野客員研究員。消化器病専門医。消化器内視鏡専門医。
4つのネットワークで脳と腸は繫がっている
ストレスで便秘したり、外で急におなかが痛くなったりして仕事や外出などがつらくなった経験はありませんか。
近年、脳と腸が互いに影響して働いていることを示す「脳腸相関」という言葉がよく聞かれるようになってきました。昔から「腑に落ちる」「腹落ちする」という表現があり、考えや感情とおなかの関連は体感的に知られていますが、『「考える腸」が脳を動かす』(集英社新書)の著者である菊池志乃先生は「脳と腸、または腸内細菌叢の関係についての研究は、2000年頃から急速に進んできました」と話します。
菊池先生によると、体にさまざまな司令を出す脳を本社とすれば、腸は大きな支社にあたり、両者の間には4つのネットワークがあるといいます。
1つ目は神経系で、自律神経系が脳と腸を繫ぎ、排便の指令にも使われます。また、腸には独自の腸管神経系があり、それは脳にも働きかけます。
2つ目は内分泌系です。ストレス時などに脳から分泌されるホルモンが胃腸に作用する一方、十二指腸から分泌されるホルモンが脳に満腹を知らせるなど双方向にやりとりします。
3つ目は免疫系です。外からの異物が通過する消化管には大きな免疫組織があり、腸の炎症などの情報が免疫細胞やそこから分泌される情報伝達物質、さらには神経系を通じて脳に伝えられます。
4つ目は腸内細菌叢です。ある種の腸内細菌が脳神経を包むグリア細胞の成熟や認知症、うつに関連するといった研究報告が次々と出ています。
これらのネットワークは複合的に働きます。「複雑なネットワークを持つ脳と腸を完璧にコントロールできる方法はありません。睡眠の充実、栄養バランスのよい食事、軽い運動、ストレスの軽減、節酒、禁煙などで生活習慣を整えることが“脳腸活”になるのです」。
過敏性腸症候群を例にした脳腸相関のイメージ

「患者さんの中には、おなかに意識を向けることで感覚が過敏になり、それによって症状が強くなって、仕事や学校を休むなど日常生活に支障が生じる方がいます。また、食生活を制限しすぎて、つらさを感じる患者さんも多いのです。同様に、痛みや過活動膀胱など一部の慢性の症状においても、強い不安や過度な注意が引き金となって症状をきたす回路ができている例があると考えています。この回路ができていることに気づき、思考や行動を調整していくと症状が改善する可能性があります」(菊池先生)
菊池先生は、消化器そのものに病気はみあたらないのに腹痛、便秘、下痢を慢性的に繰り返す過敏性腸症候群の専門家で、「考えや感情が症状を生じさせたり強くしたりする場合があり(上図)、それを調整すると症状がやわらぐことがあります」と指摘します。ふだんから自分の考えや感情を客観視することで、おなかの調子を整えられるかもしれません。そこで、菊池先生は日記をすすめています。録音や依存しない程度に生成AIに相談するのも方法で、「自分の出来事を友人の話として捉えると、より客観的に見られると思います」と菊池先生。心身への過度の注意をそらすため、推し活などの楽しみを持つのも有効だそうです。
ただし、下痢や便秘、吐き気などが続いているときにはまずは内科の診察を受けることが重要です。
・
連載「気になる医学用語」の記事一覧はこちら>>>