【咳過敏症症候群】
会話や深呼吸、柔軟剤やスパイスなどの刺激で、のどの違和感が出て、咳が止まらなくなる
[解説してくださる方]関西医科大学 内科学第一講座
診療教授・同大学総合医療センターアレルギーセンター センター長石浦嘉久先生
いしうら・よしひさ 1989年鳥取大学医学部医学科卒業、97年金沢大学大学院医学研究科修了(医学博士)。金沢大学医学部附属病院、富山市民病院等を経て、2017年関西医科大学 内科学第一講座 教授、同大学総合医療センター 呼吸器腫瘍アレルギー内科 科長就任。20年同センター呼吸器膠原病内科 部長、25年同センター アレルギーセンター センター長。日本咳嗽(がいそう)学会理事、日本呼吸器学会専門医・指導医。
まだ概念的な名称で、診断方法は確立していない
昨年作成された日本呼吸器学会の「咳嗽(がいそう)・喀痰(かくたん)の診療ガイドライン第2版2025」に「咳過敏症症候群」という名称が掲載されました。これは、鼻や口から咽頭、喉頭、気管、そして肺まで続く気道の粘膜の感覚神経や、咳を出させる脳や脊髄の神経が過敏になっており、ちょっとした刺激でのどに違和感が出て、咳が止まらなくなる症状です。胸が苦しくなったり、声がかすれたりすることもあります。
例えば、話す、笑う、深呼吸する、歌う、姿勢を変えるといった動作や、気温や湿度の変化、香水や柔軟剤、煙、水蒸気、スパイスなどが刺激になります。いわば気道や脳の知覚過敏です。
咳について知っておきたいこと・気をつけておきたいこと
咳の原因は多様
風邪や結核などの感染症、花粉や黄砂などのアレルギーのほか、誤嚥性肺炎、逆流性食道炎、肺がん、ストレスなど、咳にはさまざまな原因が考えられる。咳が1週間以上続くときには、内科か耳鼻咽喉科のかかりつけ医の診察を受け、必要に応じて呼吸器内科に紹介してもらう。
アレルギーの原因となりそうな物質を避ける
花粉や黄砂が飛ぶ時期は表面がつるんとした服で外出する、フィルター機能の高い掃除機でこまめに掃除する、エアコンのフィルターを掃除する、ペットにフケが出ないよう入浴回数に気を配る、室内の湿度を快適に保つといったことにより、咳が軽減することもある。
食事の後、すぐに横にならない
食後すぐに横になると胃の内容物が刺激となって咳が出やすくなるので、食後3時間くらいは横にならない。ガイドライン作成に携わった関西医科大学 診療教授の石浦嘉久先生によると、以前からこのような症状を訴える患者さんは多く、特に呼吸器内科では知られていたとのことです。
2010年に治療がうまくいかない慢性の咳の一部を“咳過敏症症候群”と呼ぶことが提唱されましたが、「診断名とするには症状や原因の概念が広く、その後、定義もまちまちなまま使われていました。近年、新薬が出たこともあって、ガイドラインにも明記することになりました」。
とはいえ、まだ概念的な名称で、「診断方法は確立していません」と石浦先生。咳の原因となるほかの多様な病気(感染症、喘息、肺がん、逆流性食道炎など)でないかどうかを調べ、それらの原因を排除したうえで、微細な刺激でのどの違和感や咳が続くという症状を手がかりに診断されています。
長引く治りにくい咳は、既存の神経調整薬などの薬物療法、理学療法と言語療法を組み合わせるリハビリテーション、心理療法などによる治療が行われます。
新しく発売された処方薬は咳を出す刺激を抑制する薬(P2X3受容体拮抗薬)で、咳過敏症症候群の一部の患者さんに効果があるとされます。ただ、「服用者の半数以上に苦み、金属味、塩味が変わるといった味覚異常の副作用が出ることが明らかになっています」。
また、肺炎や肺がんなどの命にかかわる病気でも咳を抑えてしまうため、薬を飲む場合には慎重な経過観察が必要です。「この薬の作用機序は初めて見つかったものです。今後、同じタイプのより副作用を軽減した薬が出てくると予想されます」。
日本の疫学調査で、石浦先生は、咳にアレルギーが関与している割合がかなり高いことが報告されています。咳に悩む人に対して、アレルゲンとなりそうなものを取り除くなど右に挙げたようなポイントに留意するよう、アドバイスします。
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