QOLを高めるがんサポーティブケア 第5回(中編)がん薬物療法に伴う副作用のうち、「化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)」は対策が遅れていましたが、近年、診療ガイドラインが策定されるなど新たな動きが起こっています。主観的な症状だからこそ患者さん自身の適切な対応も必要です。
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末梢神経障害・しびれのケア
[解説してくださる方]
福岡大学病院 医療情報部教授
吉田陽一郎先生

よしだ・よういちろう 1996年、産業医科大学医学部卒業。同大学病院第一外科などを経て2010年より福岡大学病院消化器外科に所属。23年より現職。消化器外科診療教授を兼務。専門は大腸がん。日本がんサポーティブケア学会評議員。同学会神経障害部会部会長を務め、神経障害マネジメントの開発と普及に取り組む。
CIPNを起こしやすい抗がん剤はわかっている
がん薬物療法を行った患者さんがすべてCIPNになるわけではなく、細胞障害性の抗がん剤を中心にCIPNを起こしやすい薬剤がわかっています。それぞれの薬剤によって症状が出る時期は大体決まっていますが、その発症頻度や症状の程度は個人差が大きいのが特徴です。
「がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン2023年版」日本がんサポーティブ学会編などをもとに作成
乳がんや卵巣がん、子宮がんなどの治療に使われる「パクリタキセル」と大腸がん、胃がん、膵臓がんなどの治療に使われる「オキサリプラチン」のCIPN発症頻度が高いことが知られており、なかでもオキサリプラチンは投与した患者のほぼ全員に出現するといわれます。また、治療をやめた後も症状が悪化する「コースティング」といわれる現象が起こることもあります。
一方、「CIPNの明確な診断基準がないため、薬剤を投与した後の治療経過を観察し、糖尿病などほかの要因を除外したうえでCIPNであることを判断します」と吉田先生は診断の難しさについて指摘します。
末梢神経は、脊髄から枝分かれして手足や体幹など全身の隅々に張り巡らされている神経です。その中の感覚神経は手足を含め体幹の末梢に向かって1本の長い紐のように伸びています。薬剤を投与すると、長い末梢神経から障害されるため、最初に症状が出るのは足です。
「しかし、多くの人がおかしいと初めに気づくのは、日常的に使うことの多い手なのです。つまずきやすい、歩きにくいといった足の感覚異常に気づいたときはCIPNがひどくなっている可能性があります」。
治療中は症状日誌をつけて小さな変化や違和感に気づく
「CIPNは重症化する人は少ないものの、いったん発症すると治りにくいため、早く気づいて早期に対応することが肝要です」と吉田先生。対応が遅れると症状が長引き、回復に年単位の時間がかかったり、回復しなかったりすることも起こり得るからです。
吉田陽一郎先生への取材・提供資料をもとに作成
対応が遅れると症状が長引き回復に時間がかかる。治療を始める前から対策を
早期発見のポイントとしては、CIPNが起こりやすい薬剤を使用する場合、治療前に主治医や看護師、薬剤師からCIPNのリスクや注意点の説明があるので、わからないことは質問してよく理解することが大切です。そして、治療中は症状日誌をつけることで小さな変化や違和感に気づき、気になることは何でも医療者に伝えます。
「どの病院でもがん薬物療法を実施する際には副作用マネジメントが行われ、副作用を拾い上げるためのチェックシートにCIPNの項目も含まれていて、医師、看護師、薬剤師がさまざまな場面で確認する体制が整えられています。
一方で、主観的な症状であるCIPNは患者さんが申告しなければ、医療者が拾い上げることはできません。早い段階で対処するほど生活への影響を減らしやすく、がん薬物療法を最後まで安全に続けることに役立ちます。
我慢せずに医療者に早めに伝えることがCIPNをコントロールする第一歩であり、生活と治療の両立に繫がります」と吉田先生はアドバイスします。
(次回へ続く。)
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