
医師が教える認知症予防マニュアル(6) 現在、認知症患者はおよそ700万人いるといわれ、その数は増え続けています。この連載では、長年にわたって認知症患者の治療に当たってきた医師の今野裕之先生の著書『ボケたくなければ「寝る前3時間は食べない」から始めよう』(世界文化社)より、認知症の正しい情報と、予防につながる実践的な方法をお伝えします。
これまで、「脳のゴミ(老廃物)」を排出する深い眠りを引き出す食べ方(第1回、第2回、第3回)、悪玉物質「ホモシステイン」について(第4回)、そして前回はスムーズに眠る方法についてお伝えしました。最終回となる今回は、認知症のリスクを高める意外な要因についてお話しします。
まず1つ目は「食品についたカビ」です。
カビのなかには、抗生物質のペニシリンのように医薬品として役立つものもありますが、種類によっては有害な化学物質を産生します。これがカビ毒で、食中毒や肝臓、腎臓障害、がんなどを引き起こすことも。近年では、認知症の発症にも関わるといわれ、実際、アルツハイマー型認知症の人の脳からカビの痕跡が見つかったという報告もありました。
よく知られているカビ毒の「アフラトキシン」は、ピーナッツなどのナッツ類、イチジクなどの乾燥果実、トウモロコシなどの穀類から発見されています。また、小麦・玄米などに増殖する「デオキシニバレノール」など、日本での規制対象となるカビ毒も増えています。
2つ目の身近なリスクは歯周病です。
歯周病の原因菌は血液にのって全身に回り、動脈硬化や血栓症を引き起こし、脳の血管を詰まらせる原因になります。さらに、脳のゴミの一つであるアミロイドβをたまりやすくすることもわかりました。また、歯周病になると糖尿病にもなりやすくなりますが、糖尿病は認知症の大きなリスクの一つです。
このように認知症のリスクを高める歯周病ですが、予防としては、やはり歯みがきを徹底して口の中を清潔にすることが基本です。セルフケアだけでは予防は難しいので、定期的な歯科検診を受けることをおすすめします。
また、もし歯を失ったら、必ず歯科医師に相談し、自分に合った差し歯や入れ歯を入れて噛む力を維持するようにしましょう。歯を失ったことで話しづらくなることや噛みにくくなることは、どちらも認知症リスクになります。

認知症の人が増え続ける理由は、完治させる方法が見つかっていないからです。アルツハイマー型認知症に関しては、2023年から新しい作用を持つ抗認知症薬が日本でも使えるようになりましたが、残念ながらその効果は症状の進行を抑えるにとどまっています。
認知症を完全に治せない理由は2つ。1つは、認知症の症状は様々な要因により引き起こされるのに対して、薬はたった1つの要因を改善するだけなので、十分な効果が得られないことです。
理由の2つ目は、認知症が非常に長い時間をかけて進行するため。物忘れなどの症状が現れるころには、すでに脳の萎縮が進んでしまっていて、元に戻すのは困難であることです。
しかし、何も手立てがないわけではありません。アミロイドβのような脳のゴミを増やしてしまう原因の多くは、生活習慣にあります。
この連載でご紹介した情報は、私の臨床経験に基づいた、安全で特に予防効果が高く、生活に取り入れやすい方法ばかりです。書籍では食事や睡眠に関するさらに詳しい情報や、脳を元気にするレシピなども載せていますので、ぜひあわせてご覧ください。この“認知症予防マニュアル”が、ご自身やご家族、ご友人の健康に少しでも貢献できますように。
今野裕之先生

こんの・ひろゆき 医療法人社団TLC医療会 ブレインケアクリニック名誉院長。一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所所長。博士(医学)・精神保健指定医・精神科専門医・日本抗加齢医学会認定専門医。日本初のリコード法(アルツハイマー型認知症の治療プログラム)認定医。順天堂大学大学院卒業。日本大学医学部附属板橋病院、薫風会山田病院などを経て、2016 年ブレインケアクリニックを開院。リコード法を導入し、一人ひとりの患者に合わせた診療を行っている。また、認知症予防・治療に栄養療法を取り入れている。

アルツハイマー型認知症の原因物質と考えられているアミロイドβなどを除去するには、質のよい睡眠が大切です。「寝る前3時間は食べない」習慣が深い眠りを導く仕組みを、わかりやすく解説。さらに、食事のとり方や簡単な運動など、つらくないから続けられる“脳にいい”習慣をご紹介します。
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構成・編集協力/南雲つぐみ イラスト/PIXTA