
医師が教える認知症予防マニュアル(5) 現在、認知症患者はおよそ700万人いるといわれ、その数は増え続けています。この連載では、長年にわたって認知症患者の治療に当たってきた医師の今野裕之先生の著書『ボケたくなければ「寝る前3時間は食べない」から始めよう』(世界文化社)より、認知症の正しい情報と、予防につながる実践的な方法をお伝えします。
連載初回で詳しくお話ししましたが、認知症の発症には「脳のゴミ」と呼ばれる老廃物がかかわっているといわれます。
脳のゴミを分解・排出する機能である「グリンパティックシステム」は、深い睡眠中に活発になります。認知症を寄せ付けないためには、質のよい睡眠をしっかりととることが大切です。
しかし、加齢とともに睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が減ってくることで、「眠れない」「眠りが浅い」と感じる人が増えてきます。これはある程度やむを得ないことなので、中年期からは積極的に“眠るための環境づくり”をすることが大切です。
それを毎日繰り返していると「布団に入っても眠れなかった」という記憶が残り、「今日もまた眠れるだろうか」と心配になり、それが原因でまた眠れなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。
この悪循環から抜け出すには、まず“布団に入るのは眠気を感じてからにする”こと。「それでは睡眠時間が短くなり、生活リズムが乱れてしまうのではないか」と心配する方がいますが、朝、決まった時間に起きて、日光を浴びるようにすれば大丈夫です。
また、眠りにつくための行動をあらかじめ決めておき、毎日それを同じように繰り返すことで、条件反射で眠くなるように脳に覚えさせてしまいましょう。
たとえば、
ぬるめのお湯にゆっくり浸かる
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部屋は月明かりのような薄ぼんやりした明るさにする
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寝る前にパジャマに着替える
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歯を磨く
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軽いストレッチやヨガなどで呼吸を整え、体をリラックスモードにする
こうした習慣を「眠りのためのルーティン」として続けていくことで、決まった時間に眠くなるという条件反射を作ることができます。
入浴はぬるめのお湯にゆっくりと

専門的には、この一連の寝るための習慣を「入眠儀式」といいます。自分が心地よいと感じる香りや音楽などを活用するのも大変おすすめです。
スマホを持つのが当たり前の今、寝る直前までスマホ画面を見ている人も多いのではないでしょうか。しかし、スマホの強い光が睡眠を妨げ、ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」の分泌量を増やす可能性があります。
本来、コルチゾールの分泌は深夜から明け方にかけて高くなり、朝に分泌のピークを迎えることで起床を促します。しかし、夜遅くまで起きてスマホの明るい画面を見続けていると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌量が減り、それによってコルチゾールの分泌のリズムが崩れがちに。また、スマホを見すぎてイライラしたり不安になったりする場合もコルチゾールが増加します。
スマホの強い光はコルチゾールの分泌を増やす

コルチゾールには、感染やケガなど体に悪影響を与える問題が起こったときに体を守る働きがあります。一方、それによって血圧や血糖値などが上昇する、免疫力が低下するといった変化が起こるため、コルチゾールが増加した状態が長く続くことは問題です。
コルチゾールが過剰に分泌されると、記憶にかかわる海馬などにダメージが加わり、脳の萎縮の原因に。質の高い眠りのためにも、余計な情報を見てストレスを受けないためにも、寝る前3時間はスマホやパソコンの画面から離れることをおすすめします。
次回は、身の周りに潜む意外な認知症リスクについてお伝えします。
今野裕之先生

こんの・ひろゆき 医療法人社団TLC医療会 ブレインケアクリニック名誉院長。一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所所長。博士(医学)・精神保健指定医・精神科専門医・日本抗加齢医学会認定専門医。日本初のリコード法(アルツハイマー型認知症の治療プログラム)認定医。順天堂大学大学院卒業。日本大学医学部附属板橋病院、薫風会山田病院などを経て、2016 年ブレインケアクリニックを開院。リコード法を導入し、一人ひとりの患者に合わせた診療を行っている。また、認知症予防・治療に栄養療法を取り入れている。

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構成・編集協力/南雲つぐみ 写真/PIXTA