QOLを高めるがんサポーティブケア 第4回(中編)がん患者が悩まされる体重減少の背景には「がん悪液質」といわれる病態があり、最近は「カヘキシア」とも呼ばれます。食べていても体重が減ってくるのが特徴で、治療や生命予後、QOLにも深刻な影響を与えるため、放置しないことが大切です。
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がん悪液質(カヘキシア)のケア
[解説してくださる方]
静岡県立静岡がんセンター
呼吸器内科医長 支持療法センター長
内藤立暁先生
ないとう・たてあき 1997年、浜松医科大学卒業。同大学医学部第二内科などを経て2008年より現職。がん悪液質研究の第一人者としてハンドブックの作成や治療薬の開発に携わる。20年より国際がんサポーティブケア学会 栄養と悪液質部会副議長。24年、同学会理事に選出され世界でも活躍。日本がんサポーティブケア学会理事。
がん細胞と体の相互作用によりがん悪液質は引き起こされる
「近年、がん悪液質に関する研究が進み、その機序が徐々に明らかになってきました」と内藤先生はいいます。原因は複雑で、腫瘍(がん)由来因子と宿主(患者)由来因子の2つの要因ががん悪液質の発生にかかわっています。
「前者では、GDF15、マイオスタチン、PTHrPといった液性因子が筋肉や脂肪組織を分解し、エネルギーを大量に消費します。かつ脳に作用して食欲を低下させます。後者では、体内の異物(がん)に免疫が反応してサイトカインが活性化し、それによりインスリン抵抗性が起こって筋肉や脂肪組織の合成が阻害されます。ゆえに材料となる栄養素を食事からとっても、それを使って体をつくることができず、消費だけが盛んに行われるのでやせていくのです」と内藤先生は説明します。
全身性炎症を背景に複数の原因が関与する

『がん悪液質ハンドブック』日本がんサポーティブケア学会ほか 監修を参考に作成
さらに、がんの治療薬の中には筋肉を分解する作用を持った薬剤があることが指摘されています。「膵臓がんの薬物療法で特定の抗がん剤を投与された人は100日あたり14パーセントの筋肉を失っているというデータがあります。筋肉が10パーセント減少するのに男性では20年、女性では25年かかるため、100日で20年分以上の加齢と同等の筋肉量が減少したことになります」。
予後の明暗を分けるのは筋肉量。普段から筋肉量の蓄積に努める
また、がん悪液質が起こりやすいがんとそうでないがんがあります。胃がん、膵臓がん、肺がんは初期の段階から体重減少を経験しやすい一方、乳がんや悪性リンパ腫、白血病、前立腺がんではあまりみられません。「しかし、ミクロの世界でみると、実は初期からうっすらと始まっていて治療にも影響を及ぼします。食道がんや大腸がんを対象とした研究では、体重が減っていなくても術前のCT検査で筋肉量が少ない人は術後の合併症が多かったり、術後の薬物療法ができなかったり、実施しても副作用が多かったりといろいろな弊害が出てきました」。
内藤先生によるとフレイル(虚弱)、サルコペニア(筋肉量・筋力低下)、悪液質は連続した概念であり、がんに罹患しやすい中高年世代はフレイルやサルコペニアを併存していることも少なくないため、健康なうちから筋肉量の蓄積に努めることがとても大切です。「2人に1人はがんにかかる時代です。進行がんと診断されたとき、予後の明暗を分けるのは筋肉量です。がん診断時の筋肉量が多い人ほど薬物療法の完遂率が高く、副作用が少なく、生存率も良好であることが多くの研究からわかっています」。がんになっても生き抜けるよう備えておきたいものです。
半年間で体重5パーセント減少は要注意!早めに気づいて対策を

内藤立暁先生提供資料をもとに作成
進行がんになると8割の患者さんにがん悪液質がみられますが、その前にできるだけ早く気づいて集学的治療を始めることが肝心です。それは、がんとうまく共存し長生きするための重要なポイントだと内藤先生は示唆します。「半年間で5パーセントの体重減少(50キロで2・5キロ減)が早期発見の鍵です。しかし、この程度の減少は気づきにくいため、意識的に体重を測定することが欠かせません。週1回、時間を決めて測定し記録することをおすすめします」。
(次回へ続く。)
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