
医師が教える認知症予防マニュアル(2) 現在、認知症患者はおよそ700万人いるといわれ、その数は増え続けています。この連載では、長年にわたって認知症患者の治療に当たってきた医師の今野裕之先生の著書『ボケたくなければ「寝る前3時間は食べない」から始めよう』(世界文化社)より、認知症の正しい情報と、予防につながる実践的な方法をお伝えします。
前回記事では、認知症の発症にかかわる「脳のゴミ」を排出するためには深い眠りが欠かせないこと、睡眠の質を上げるためには「寝る前3時間は食べない」ことが重要であるとお話ししました。
では、寝る直前まで飲食をすると、体にどんな影響があるのでしょうか。
まず、胃には食べ物と胃酸が残っているため、夜中に胃酸が逆流して逆流性食道炎の原因になります。アルコールを飲むと睡眠の質が低下するので、「脳のゴミ出し」もうまく働きにくくなります。食事の際に水分を摂ることで夜間頻尿に悩むケースも増えるでしょう。
健康な人の場合、食事をしてからおよそ30〜60分で血糖値が最も高くなり、4~5時間すると最も低くなります。ところが、寝る前に糖質を摂ってしまうと、寝ている間に血糖値が急激に上がり、その結果インスリンが過剰に分泌され、その後急激に血糖値が下がるという現象が起こることがあります。

この血糖値の急激な変動により自律神経が乱れ、特に低血糖になったときには脳を覚醒させるアドレナリンなどのホルモンが分泌されるため、眠りが浅くなります。逆に高血糖になったときには、エネルギーにならず余った糖が中性脂肪となり体に蓄えられるので、肥満や脂肪肝などの原因になります。
また、高血糖の状態が続くと、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が発生します。アルツハイマー型認知症は、「第3の糖尿病」といわれることがありますが、これはアルツハイマー型認知症では発症する前から、脳の特定部位においてインスリン抵抗性が見られるからなのです。
ここまでお話ししてもなお、「寝る前におなかが空いて眠れない」という方がいるかもしれません。しかし、少し前にしっかり夕飯を食べたのに、なぜ寝るときになると空腹を感じるのでしょうか。
夕食時にお酒を飲んだ人は、お酒の食欲増進作用で空腹を感じているかもしれません。一方、日ごろから不安やイライラした気持ちを抱えている人は、ストレスが原因で空腹を感じている可能性があります。
ストレスがかかると体内で「コルチゾール」などのストレスホルモンが分泌されます。コルチゾールには食欲を増進させる働きがありますが、このときに糖質量の多いお菓子やジュースで空腹をまぎらわせているとインスリン抵抗性が発生し、糖をエネルギーに変えることができない状態になります。こうなると、いくら食べても脳はエネルギー不足のままで、「何か食べたい」と強く感じてしまうのです。
■寝る前に食べてしまう背景にはこんな悪循環が

今野裕之先生

こんの・ひろゆき 医療法人社団TLC 医療会 ブレインケアクリニック名誉院長。一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所所長。博士(医学)・精神保健指定医・精神科専門医・日本抗加齢医学会認定専門医。日本初のリコード法(アルツハイマー型認知症の治療プログラム)認定医。順天堂大学大学院卒業。日本大学医学部附属板橋病院、薫風会山田病院などを経て、2016 年ブレインケアクリニックを開院。リコード法を導入し、一人ひとりの患者に合わせた診療を行っている。また、認知症予防・治療に栄養療法を取り入れている。

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構成・編集協力/南雲つぐみ 写真/PIXTA