QOLを高めるがんサポーティブケア 第3回(前編) がん治療によってリンパ液の流れが悪くなることが原因で発症するリンパ浮腫。患者数に対して専門施設が足りず、治療をあきらめている人も少なくありません。リンパ浮腫になっても困らないように基礎知識と対策を知っておきましょう。
リンパ浮腫のケア
[解説してくださる方]
リムズ徳島クリニック 院長
日本リンパ浮腫治療学会 理事長
小川佳宏先生
おがわ・よしひろ 1989年、徳島大学医学部医学科卒業。徳島大学病院心臓血管外科を経て、2000年にリンパ浮腫の保存的治療をメーンに行うクリニックを開業。入院設備を備えており、全国から重症患者が受診する。日本リンパ浮腫治療学会をはじめ関連学会の要職を務め、リンパ浮腫の啓発活動(早期発見・早期治療の普及)にも取り組む。
がんの手術や放射線治療でリンパ浮腫が起こることも
がんの治療に伴い、さまざまな合併症や後遺症が残ることがあります。リンパ液の流れが悪くなり、皮膚の下にたまってむくんだ状態になるリンパ浮腫もその一つです。
この病態に詳しく、リンパ浮腫の保存的治療の第一人者として知られる小川佳宏先生は「がん患者さんにリンパ浮腫が起こる原因には、手術でがんの周辺にあるリンパ節を切除したり放射線の照射を受けた組織が変化しリンパ管を圧迫したりして、リンパ液の流れが悪くなることが挙げられます」と説明します。
これらの原因の中でも手術によるものが大半を占め、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、外陰部がん、肛門がん、メラノーマなどが手術によるリンパ浮腫が起こりやすいがんとして知られています。というのも、わきの下、骨盤内、脚の付け根のリンパ節を切除することが多いからです。リンパ節への転移の有無を調べる検査(センチネルリンパ節生検)でもまれに起こることがあります。
また、乳がんや婦人科がんの治療に使われるタキサン系の抗がん剤、肺がんに使われる分子標的薬など、がん治療薬の中には副作用としてむくみが起こりやすいものがあり、リンパ浮腫に進行する場合があります。そのほか、がんそのものの進行や転移によってもリンパ液の流れが悪くなり、リンパ浮腫を起こすことがあります(下記)。
治療によってリンパ管の働きが損なわれることで発症する
●リンパ浮腫の原因【手術】手術でがんの周辺にあるリンパ節を切除する(リンパ節郭清)ことで、リンパ液が流れなくなり、リンパ浮腫が起こる。
<手術によるリンパ浮腫が起こりやすいがん>乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、外陰部がん、肛門がん、メラノーマなど
【放射線治療】放射線の照射を受けた組織が変化しリンパ管を圧迫することで、リンパ液の流れが悪くなり、リンパ浮腫が起こる。リンパ節を切除した後に放射線治療を受けると起こりやすい。
【薬物療法】乳がんや婦人科がんの治療に使われるタキサン系の抗がん剤、肺がんに使われる分子標的薬など、がん治療薬の中には副作用としてむくみが起こりやすいものがあり、リンパ浮腫に進行する場合がある。
【がんの進行や転移】がんが進行してリンパ管の中に広がったり、リンパ管を圧迫したり、リンパ節に転移したがんが大きくなって周囲のリンパ管を押し潰したりすると、リンパ液の流れが悪くなり、リンパ浮腫を起こすことがある。
小川佳宏先生への取材および国立がん研究センター「がん情報サービス/リンパ浮腫」を参考に作成
腕や脚の太さの左右差が目立つ外見上の変化で悩む人が多い
「主症状はむくみのみで、痛みやしびれは基本的に伴いません。手術でわきの下や鼠径部のリンパ節を切除した場合は切除と同側の腕や脚に、骨盤内のリンパ節を切除した場合は両脚に、リンパ浮腫が起こることがあります。軽度では腕や脚を高く上げるとむくみが改善されて目立たなくなりますが、放置するとリンパ浮腫が進み、腕や脚を上げても改善しなくなり、やがて腕や脚の太さの左右差が目立ってきます」
このような状態になるとQOL(生活の質)にも影響を及ぼします。
「蜂窩織炎(ほうかしきえん・細菌感染による炎症)の注意も必要ですが、患者さんが最も悩むのは外見上の変化です。発症者の8割を女性が占めることと関係しているかもしれません。人と会わないように家に引きこもったり、片腕や片脚がむくんで太くなることで着られる衣服が制限されたりすることも多いです」。
(中編へ続く。)
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