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尊敬する夫が認知症になり幻視の症状も。82歳現役内科医が介護を通じて得た気付きとは

2026.03.05

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82歳の現役内科医からあなたへ贈る、人生100年時代の道しるべ (3) 長寿社会の日本。90代でも元気な人や100歳を超える人がいる一方で、将来の健康に不安を感じる人も少なくありません。老化を遅らせて元気に長生きする秘訣は、日々の健康管理法や気持ちの持ち方にあります。この連載では、『80歳、これからが人生本番』(世界文化社刊)の著者である現役内科医の菅沼安嬉子先生が、いつまでもはつらつと生きるために今からできることをお伝えします。


変わっていく夫の姿に介護のつらさを知った

前回は、50代が知っておくべきことと、やるべきことをお伝えしました。最終回となる今回は、長寿化時代に避けて通ることはできない、親や配偶者の介護についてお話しします。

私自身、かつて夫の介護を経験し、2019年に見送りました。医師の夫は5歳上で、とても尊敬できる人でした。私は学生時代に彼と結婚し、「地域医療に貢献したい」という夫の夢に寄り添い、2人で診療所を開きました。娘と息子にも恵まれ、まさに二人三脚でずっと生きてきましたが、70歳を前に夫に異変が起き始めたのです。

ある日、夫が女性の患者さんをレントゲンに回す際に「妊娠の有無」の確認を忘れるという事態が起こりました。レントゲン技師のダブルチェックで発見することができましたが、夫が普段とは違う問診をしたことに、私はショックを受けました。別の日にはトンチンカンなことを言って患者さんを怒らせたことも。すぐに同じく医師である息子に相談したところ、診療所は息子が継ぐことになり、夫は引退しました。


検査の結果、夫はレビー小体型認知症でした。わが家の庭には小さな池があるのですが、引退してからの夫は一日中ぼーっと庭を見ています。「何が見えるの?」と聞くと、「蛇がな、カエルを飲み込もうとしているんだ」。庭には蛇もカエルもいません。レビー小体型認知症特有の、「幻視」の症状が現れたのです。頼りになり、尊敬もしていた夫が変わってしまうさまをそばで見るのは本当につらくて、胸がつぶれそうでした。

介護のストレスをやわらげるには

そのうち、心配と不安で私自身の体調が悪くなってしまいました。子どもたちとも相談して、夫には療養型の病院に入院してもらいましたが、夫の症状が進んでいく様子を受け止めきれず、ストレスは解消されませんでした。

ついに、外出中に目の前が真っ白になり、ストレス性の心身症と診断されるまでに。医師であり、ストレスと病気の関係について知識がある私でも、これほど体にダメージが出たのですから、医療の専門家でない方はもっと大変かもしれません。

私の場合、子どもたちのほか、知り合いの医師に夫や自分自身の体調について相談し、ずいぶん助けられました。

現在の診療所メンバー。老年医学が専門の長女、院長で外科の長男、診療所のスタッフに囲まれて。

現在の菅沼三田診療所メンバー。老年医学が専門の長女(前列左)、院長で外科の長男(前列右)、診療所のスタッフに囲まれて。

私も、介護ストレスから不調になった患者さんを何人も診ましたが、話を聞くと泣き出す方もいて、診察を終えたあとはスッキリしたように表情が明るくなります。愚痴を聞いてもらえる友人の存在も大いに助けになりますが、なんでも話すことができ、時には弱音を吐けるホームドクターは絶対に必要です。

介護が始まる前から家族間で話し合いを

わが家もそうでしたが、介護を必要とする方は、施設などに入所する前に、自宅で要支援・要介護の時期を過ごすケースが多いと思います。ご家族は、同居か通いかによってもかかわり方が異なりますが、いずれにせよそれまでの生活リズムが大きく変化します。長期化すると、負担も大きいでしょう。

できれば介護が始まる前から兄弟姉妹や親と、いざというときにどうするかオープンに話し合っておきたいものです。兄弟姉妹がいない人は、しっかり親と事前に相談し、親が元気なうちに施設の見学をするなどして心の準備を始めたほうがよいと思います。男きょうだいの場合、なるべく配偶者も話し合いに参加してもらうようにしましょう。

菅沼先生ご自身は現在、サービス付きシニア レジデンスで暮らす。「いつか介護が必要になったら、子どもたちがつらい思いをしないよう、プ ロに任せると決めています」

菅沼先生ご自身は現在、サービス付きシニアレジデンスで暮らす。「いつか介護が必要になったら、プロにまかせると決めています」

大事なのは、一人で抱え込まないこと。「家族介護はここまで」と決めておかないと、仕事を失うなど生活が破綻する場合もありますし、ストレスが原因で病気になりかねません。精神的に追い詰められると、親に優しくしてあげられなくなり、そんな自分に対して自己嫌悪を抱き、ますますメンタルが不調になります。

自宅介護の人も、デイサービスやショートステイなどをできるだけ利用することをおすすめします。自分を介護から解放する時間を作るなど、親といい関係を築けるように、また親がいなくなってもいい思い出が残るよう工夫しましょう。

毎日が楽しいと免疫力が上がる

私たちは、いずれ老いて、死んでいく。その事実からは誰も逃れられません。そのとき、あなたはどんな最期が理想でしょうか。

私は77歳のときに膵臓を半分取る手術をし、もしかしたらいつか再発するかもしれないという思いもちょっぴり持っています。その日が来るまで朗らかに、イキイキと最後まで生ききりたいと考えています。

私にとって「最後まで生ききる」とは、人生最後の目標のために力を尽くすこと。今は、ナノプラスチックの問題について多くの人に発信する活動を行っており、体力と気力が許す限り続けたいと考えています。

ナノプラスチックに関する国際会議で講演するために渡米した際の写真。スタンフォード大学のロナルド・パール教授、慶應義塾大学の満倉靖恵教授と。

国際会議でナノプラスチックに関する講演をするために渡米した際の写真。スタンフォード大学のロナルド・パール教授、慶應義塾大学の満倉靖恵教授と。

ナノプラスチックのリスクについては、ぜひ私の著書をご覧いただきたいと思いますが、人の健康を損ね、環境を破壊するものであることは確かです。私は医師として、この問題を見て見ぬふりをすることはできず、少しでもプラスチックを減らすために様々な働きかけをしています。

この目標が今の私の生きるエネルギーであり、元気の源。ぜひ皆さんも夢中になれることを見つけて、ワクワクする日々を送ってください。毎日が楽しいと免疫力が上がり、何歳になっても若々しくいられ、健康を保ちやすいのです。私が証明ですよ。


菅沼安嬉子先生

すがぬま・あきこ 1943年、東京に生まれる。1968年、慶應義塾大学医学部卒業、内科学教室入室。現在、菅沼三田診療所副院長。長年、産業医としても働く人の健康を支えてきた。2020年3月、女性で初めて慶應連合三田会会長に就任。1985 ~ 2000年までの15年間、母校である慶應義塾女子高等学校で保健授業の講師も務めた。また、2001年~ 2008年、慶應義塾大学看護医療学部講師(臨床栄養学)。著書に『私が教えた 慶應女子高の保健授業』(世界文化社)他。

いくつになっても輝くための1冊。『80歳、これからが人生本番』

『80歳、これからが人生本番』

『80歳、これからが人生本番』

82歳で現役内科医の菅沼安嬉子先生が50代、60代、70代に実践してきた「終活」への知恵を公開。医学的知識に基づいた健康管理法から、家族の介護、相続など、人生で誰にでも起こりうる出来事についてアドバイスが満載です。

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取材・構成/篠藤ゆり 撮影/大見謝星斗(世界文化ホールディングス)

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