
82歳の現役内科医からあなたへ贈る、人生100年時代の道しるべ (2) 長寿社会の日本。90代でも元気な人や100歳を超える人がいる一方で、将来の健康に不安を感じる人も少なくありません。老化を遅らせて元気に長生きする秘訣は、日々の健康管理法や気持ちの持ち方にあります。この連載では、『80歳、これからが人生本番』(世界文化社刊、2月26日発売)の著者である現役内科医の菅沼安嬉子先生が、いつまでもはつらつと生きるために今からできることをお伝えします。
前回記事では、ストレスが様々な病気の原因になることと、ストレスとうまく付き合う方法についてお話ししました。今回は、後半生のスタートである「50代の過ごし方のコツ」についてお伝えしたいと思います。
50歳でお勤めをしている方の場合、65歳を定年とすると、今の職場で働くのはあと15年。そろそろ、その後の人生を視野に入れたほうがいい年齢です。
専業主婦で過ごしてこられた方は、これまで家族のためにがんばってきて、次の人生をどうステップアップするか考える時期。なかには子どもの進路問題に頭を悩ませている方もいるかもしれませんね。
更年期の症状は、早い人では40代半ばから出始めます。ホットフラッュのような典型的な身体症状以外にも、「なんとなくうつっぽい」「体がだるくて、やる気が出ない」といった精神的な症状が出ることも。もちろん、うつ病の可能性を考慮して専門医にかかったほうがいいケースもあるでしょうが、40代半ば~50代半ばの女性の場合は、更年期の精神的症状の可能性があります。
〔更年期の代表的な症状〕
身体症状
ほてり、のぼせ、発汗(ホットフラッシュ)、冷え、動悸、肩こり、腰痛、手足のしびれ、感覚鈍麻、めまい、頭痛、頻尿、尿失禁、老人性膣炎、性行為痛
精神的症状
イライラ、不眠、うつ症状、怒りっぽくなる
更年期はいわば、第二の人生に入る前のトンネルのようなもの。必ず出口があるし、その先には明るい光が差していますよ。更年期を上手に乗り切るための5つの基本的な療法をご紹介します。
1.生活療法
更年期症状が始まった初期は、規則正しい生活を送ることが症状をやわらげるのに有効です。睡眠不足と疲労に注意し、喫煙や過度な飲酒も避けましょう。
2.運動療法
運動をすると“幸せホルモン”とも呼ばれるセロトニンなどの分泌が活性化され、イライラやうつを抑制する効果があります。おすすめは、リズムを刻むウォーキングやサイクリングなどの運動。結果的に筋力や骨密度を保つためにも役立つので、ぜひ試してみてください。
3.精神療法
強いストレスは、女性ホルモンのエストロゲンの分泌量をさらに低下させるといわれています。趣味を楽しむなど、ストレス発散はとても重要です。
4.食事療法
女性ホルモンに似た作用がある物質を含む食品を積極的に摂りましょう。代表的なのが、納豆、豆腐、豆乳、煮豆、きな粉などから摂ることができる大豆イソフラボンや、ザクロの種子に含まれているエストロンやポリフェノールなどです。
5.ホルモン補充療法
更年期があまりにもつらい場合は、医療機関でのホルモン補充療法を考えてもいいでしょう。減っていく女性ホルモンを補うことで、体調のゆらぎをソフトランディングさせるイメージです。ただし5年以上続けると乳がん、子宮がんのリスクが高まるともいわれていますので、気をつけましょう。
更年期を抜けると、それまでの体調不良が嘘のように心身の状態が改善する人が多いものの、エストロゲンが低下した体では、様々なリスクが上がります。代表的なものではコレステロール値が上がる、骨粗しょう症のリスクが高まる、などです。
閉経後の女性のほぼ半数が、ケーキの食べ放題後はコレステロール値がぐんと跳ね上がります。検診で悪玉(LDL)コレステロールが上がってきた人は、甘いものはほどほどに。
骨密度を保つためには、日々の食事でカルシウム摂取を心がけましょう。成人が一日に必要なカルシウム量は650〜750㎎、高齢女性なら600〜700㎎。牛乳コップ1杯(200ml)、ヨーグルト1個(200g)、三角チーズ1個で、それぞれ約200mgのカルシウムが摂れます。カルシウムの吸収を促すビタミンD やビタミンKが含まれる食材とあわせて積極的に摂りましょう。ビタミンD は卵、牛乳、チーズ、椎茸やキクラゲなどのキノコ類、鮭、サンマなどに、ビタミンKは緑茶、納豆、小松菜、ほうれん草、 海老、ブロッコリーなどに含まれます。
運動も大切です。骨は負荷がかかると強くなるので、下図の「かかと落とし」や、速足・一休み・普通の速度を織り交ぜた「リズムウォーキング」のような、骨に刺激を与える運動がおすすめです。
図 かかと落としのやり方
さらに、骨折のリスクを減らすためには筋力維持も大切。駅ではエスカレーターではなく階段を上る、テレビを見ながらスクワットをするなど、日常でできる範囲の筋トレを取り入れましょう。ちなみに私は、アイロンを使って腕の筋トレをしています。
鉄アレイは私にはちょっと重いし、万が一足の甲に落としてしまったら骨折しかねません。そこへいくとアイロンは、ほどほどの重さで扱いやすいのです。台所のシンクや洗面台の縁につかまって、斜め45度で腕立て伏せをするのもおすすめです。
がんは今では「治る病気」と考えられています。とはいえ、進行してからでは、今の医学でも手遅れになる場合があります。ですから何より早期発見が大事。また、がんによっては遺伝もあるといわれているので注意しましょう。
年齢が高くなるとがんに罹患する率がぐっと高くなり、その境目が50代。50歳を過ぎたら、定期的に検診を受けること。女性は必ず、婦人科検診で乳がん、子宮がん、卵巣がんをチェックしましょう。気になる症状がある場合は億劫がらずに病院を受診してください。
書籍では、がんから体を守る免疫力についてや、なるべく避けたい発がん物質、がん予防によいとされる食べ物などについて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
*次回は、介護への向き合い方についてお伝えします。
菅沼安嬉子先生

すがぬま・あきこ 1943年、東京に生まれる。1968年、慶應義塾大学医学部卒業、内科学教室入室。現在、菅沼三田診療所副院長。長年、産業医としても働く人の健康を支えてきた。2020年3月、女性で初めて慶應連合三田会会長に就任。1985 ~ 2000年までの15年間、母校である慶應義塾女子高等学校で保健授業の講師も務めた。また、2001年~ 2008年、慶應義塾大学看護医療学部講師(臨床栄養学)。著書に『私が教えた 慶應女子高の保健授業』(世界文化社)他。
82歳で現役内科医の菅沼安嬉子先生が50代、60代、70代に実践してきた「終活」への知恵を公開。医学的知識に基づいた健康管理法から、家族の介護、相続など、人生で誰にでも起こりうる出来事についてアドバイスが満載です。
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取材・構成/篠藤ゆり 撮影/大見謝星斗(世界文化ホールディングス) イラスト/高内彩夏