〔特集〕正しく知れば怖くない 認知症の「新常識」 50代を迎え人生の折り返し地点を通過。親も高齢になり、「認知症」が身近な問題として徐々に存在感を増してきました。今、私たちが取り組むべきは、認知症を正しく理解し、恐れず、効果的な予防法に努め、適切な医療を求めること。まずは、ありがちな誤解や思い込みを改め、正しい知識を“新たな常識”として身につけることから始めましょう。
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【正しく知る】
間違った知識が対策を遅らせ、症状を進ませる。
認知症を“誤解”していませんか?
[お話を伺った方]
たろうクリニック 院長
内田直樹(うちだ・なおき)先生
1978年生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院外来医長などを経て2015年より現職。在宅医療を中心に認知症の診療と生活支援を行う。著著に『脳にいいスマホ』『早合点認知症』(ともにサンマーク出版)ほか。
誤解1
認知症は“治らない”。だから受診しても意味はない。
→ 原因となる病気の治療で、認知機能が改善する可能性があります。認知症とは“認知機能が低下し日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態”を指します。原因となる疾患は70以上あり、アルツハイマー型認知症(全体の約7割を占める)、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の「四大認知症」は不可逆的で進行性、つまり現在の医学では治らない病気とされています。
「しかし他の病気が原因で認知機能が落ちている場合は、その病気を治療することで治ったり症状が軽くなる可能性があります。認知機能の低下が見られたら受診し、治療のチャンスを見逃さないことが大事です」(内田先生/以下同)。
ほかにビタミンB₁₂欠乏症、特発性正常圧水頭症、脳腫瘍などがある。受診してこれらの病気を見逃さないことが大事だ。
誤解2
50歳を過ぎて物忘れが増えたら、認知症の始まりだ。
→ 加齢に伴う、心配のない物忘れのことがほとんどです。固有名詞が出てこず「あれ」を連発したり、スマホを持たずに外出したり。50代頃から増えてくる物忘れの大半は加齢に伴うもので、認知症の物忘れとは異なります。私たちは物事を記憶するとき3つのステップを踏みます。
(1)出来事を覚える「記銘」。(2)脳の記憶の棚にしまい込む「保持」。(3)必要に応じて記憶の棚から取り出す「想起」。
「加齢による物忘れは想起の問題。認知症の人は記銘に支障があり、新しく覚えることができません。つまり正確には忘れるのではなく覚えられない現象です。何度も同じことを聞く行為にもそれなりの理由があるのです」。
誤解3
認知症になったら何もかも忘れ、人格が変わってしまう。
→ 症状は軽度から少しずつ進み、いきなり重度にはなりません。家族を忘れ、徘徊や暴力的な言動を繰り返す。そのような状態は重度の認知症症状の一部です。認知症の約7割を占めるアルツハイマー型認知症は軽度からゆっくり進むのが特徴で、多くの人が生活を工夫して不自由なく暮らしていますし、能力を生かして就労している人もいます。
「“認知症は怖い”という偏ったイメージを持つと、隠そうとして引きこもり、受診をためらい、症状が進むことになります。誰もが認知症になりうる以上、一人一人が認知症という病気を正しく理解し、認知症に優しい社会を作ることが重要だと私は考えています」。
誤解4
新薬登場!ついに認知症が治る時代がやって来た!
→ 進行を完全に止める効果はまだ証明されていません。近年、認知症の新薬が話題になりました。既存の抗認知症薬の4薬に加え、アミロイドβ(アルツハイマー型認知症の原因物質)を取り除く作用のある抗アミロイドβ抗体薬「レカネマブ(商品名レケンビR)」と「ドナネマブ(同ケサンラR)」の2種類が登場したのです。
「しかし、認知症を完治させる薬ではありません。適応は、アルツハイマー型認知症によるMCI(軽度認知障害)または軽度認知症に限られ、臨床調査における認知症症状の改善効果は既存薬と同程度である一方、脳の微出血やむくみが13〜31パーセント生じると報告されています」。
誤解5
認知症は老化現象だから、抗っても仕方がない。
→ 「認知予備能」を働かせ、発症や進行を遅らせることができます。認知症の有病率は年を重ねるごとに高くなります。しかし加齢に伴う脳の萎縮と認知機能の低下は必ずしも比例しません。101歳で亡くなる直前まで活動的に働いていたアメリカの修道女の死後解剖で、脳の萎縮が見られた事例があります。生前の社会性や知的活動が脳の神経回路を増やし、予備の認知機能として働いたと考えられています。
「認知予備能はすべての人に備わっています。高齢になればリスクは高まるものと冷静にとらえつつ、認知機能を保つ努力を怠らない。これが認知症との正しい向き合い方だといえます」。
認知症有病率は5歳刻みで約2倍ずつ増え、90歳以上では50パーセントを超える。50代のうちから予防を心がけよう。
総務省2023年10月予測値に基づく人口と、九州大学大学院二宮利治教授の「老人保健事業推進費等補助金」研究(2023年)による認知症者数をもとに内田先生が作成
(次回に続く。
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