QOLを高めるがんサポーティブケア 第2回(前編)「アピアランスケア」をご存じですか。近年、脱毛などのがん治療に伴う外見の変化に対して適切な支援が行われるようになってきています。また、研究から外見症状による苦痛は社会的苦痛であることがわかっています。
アピアランスケア
[解説してくださる方]
目白大学
看護学部看護学科 教授
野澤桂子先生
のざわ・けいこ 1983年、立教大学法学部卒業。2007年、目白大学大学院心理学研究科後期博士課程修了。博士(心理学)。臨床心理士・公認心理師。山野美容芸術短期大学美容福祉学科教授、国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター初代センター長を経て、21年より現職。外見の問題に悩む患者への支援が研究テーマ。
治療に伴う苦痛の上位を占め、生活にも大きな影響を及ぼす
アピアランスケア(外見ケア)とは、がんやその治療に伴う見た目の変化による苦痛を軽減するための支援です。
「外見症状の多くは治療の副作用の一つとして起こってきます。それらは痛みやかゆみを伴わないにもかかわらず、便秘や口内炎、発熱といった副作用よりも苦痛が大きいことがわかっています」と日本のがん医療の現場にアピアランスケアを導入し、現在もその質の向上と普及に取り組む野澤桂子先生は説明します。
野澤先生たちが乳がんを経験した女性を対象に治療に伴う身体症状の苦痛度を調査した研究によると、1位は頭髪の脱毛、2位は乳房切除と外見の変化にかかわるものでした。さらに上位20症状のうち、外見症状が全体の60パーセントを占めていました(下表)。
外見症状による苦痛度は高い
●乳がん女性の苦痛度
Nozawa et al,Psychooncol,2013 厚生労働省「第3回がんとの共生のあり方に関する検討会」(令和元年10月23日)資料4を参考に作成
外見の変化による苦痛は社会生活にも大きな影響を及ぼします。別の調査では、見た目が変わったことで、外出の機会が減ったり、人と会うのがおっくうになったり、仕事や学校を休んだりした経験がある人はそれぞれ40パーセント程度いたことが報告されています。
国のがん政策とも連動し、ウィッグなどの費用助成も
一方で、がんやがん治療に伴う外見の変化は長い間、命と引き換えにやむを得ないものと考えられてきました。
「しかし、がん治療の進歩とともに長生きする人が増えてきて、さらに副作用を軽減する支持療法が発達し、多くの患者さんが社会生活を送りながら治療する時代になったことで外見の問題にも対応するようになりました」と野澤先生は経緯を説明します。
なかでも転機となったのは分子標的薬であるEGFR阻害薬の登場です。この薬剤の主たる副作用である皮膚障害が重症の人ほど薬の効果が高いことがわかりました。
「しかし、見た目(肌)が悪くなることがつらくて薬を拒否する患者さんも少なくなく、治療を継続するために医療者が外見の問題に向き合い始めたのです」(野澤先生)。
近年は国のがん政策とも連動し、2018年の「第3期がん対策推進基本計画」ではアピアランスについての課題が初めて取り上げられ、治療の継続と患者のQOL(生活の質)向上のために適切な支援が必要であると言及されました。また、多くの自治体ではウィッグや人工乳房、補整用シリコンパッドなどの購入やレンタルにかかる費用が助成されるようになりました。
(後半へ続く。)
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