【制御性T細胞】
ノーベル生理学・医学賞の対象となった免疫をコントロールする重要な細胞
[解説してくださる方]
国際医療福祉大学医学部免疫学教授
慶應義塾大学名誉教授
河上 裕先生
かわかみ・ゆたか 慶應義塾大学医学部血液内科、米国NIH国立がん研究所等を経て、慶大医学部先端医科学研究所所長・教授、日本がん免疫学会理事長を歴任。がん免疫学研究とがん免疫療法の開発で受賞多数。がんを攻撃するキラーT細胞の標的がん抗原の同定や制御性T細胞も関与するがん免疫抑制機構の解明によりがん免疫療法の開発・改良を進めている。2019年から現職。
自己免疫疾患やがんなどの治療に期待がかかる
2025年、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授を含む3名が免疫学の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
体を守る免疫はときに自分の細胞を攻撃してしまうことがあります。免疫を司るT細胞が胸腺で成熟する際に、自己に反応するT細胞は除かれますが、完全に排除されるわけではありません。坂口特任教授は、マウスの実験で体に残った自己反応性T細胞を抑制する別のT細胞が胸腺で作られることを1995年に突き止めました。これが“制御性T細胞”です。
制御性T細胞の働きと病気やその治療との関連

ノーベル賞を同時受賞した2名の米国研究者は、2001年に先天的に免疫が自己組織を破壊するマウスからその原因遺伝子を見つけ、ヒトでも同様の病気があることを示しました。そして、坂口特任教授は03年にその遺伝子がないと制御性T細胞が作られず、機能しないために自己免疫疾患が起こることを報告しました。
坂口特任教授と長年の交流がある国際医療福祉大学医学部免疫学教授の河上 裕先生は、「免疫を抑制するT細胞は1970年代に示唆されていましたが、その存在は疑問視もされていました。しかし、坂口先生はその存在を信じて研究を続け、制御性T細胞の生まれる仕組みや働きを解明しました。今、制御性T細胞の免疫コントロール作用は病気の治療に使える可能性があると期待されており、基礎研究だけでなく、応用研究も進んでいます」と話します。
例えば、自己免疫疾患やアレルギー、臓器移植では、制御性T細胞を増やして病気を起こす免疫を抑えること、逆に、がんではがんを攻撃する免疫を抑える制御性T細胞を減らして治療効果を高めることが考えられています。
坂口特任教授の研究グループは、最近、自己免疫疾患モデルマウスで悪い免疫を起こすT細胞を体外で制御性T細胞に変換させる方法を開発し、その細胞の投与によって自己免疫疾患や炎症性疾患を改善できること、さらに患者から得た自己反応性T細胞を制御性T細胞に変換できることを発表し、それを用いる臨床試験も計画しています。
河上先生の専門であるがん免疫療法では、「坂口先生たちは、がん組織に集まるT細胞を抑える制御性T細胞を選んで減らす薬も見つけており、臨床試験も進んでいます」。制御性T細胞をコントロールする薬はまだ実用化されていませんが、世界で臨床試験が進められ、結果が期待されています。
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