患者と家族を支える医療 第1回(後編)日本人の2人に1人ががんに罹患し、がんと共存しながら生きる時代です。治療が長期化する中「患者と家族を支える医療」がより重要になってきています。罹患したときに困らないようQOLを高める知識を蓄え、将来に備えましょう。・
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あらゆる職種の力を結集し、全人的なアプローチからサポーティブケアを提供する
[解説してくださる方]
日本がんサポーティブケア学会 理事長
和歌山県立医科大学内科学 第三講座 教授
山本信之先生
やまもと・のぶゆき 1989年、和歌山県立医科大学医学部卒業。国立がん研究センター中央病院、近畿大学、静岡県立静岡がんセンターを経て、2013年から現職。24年から同大学副学長を兼務。同年、日本がんサポーティブケア学会第3代理事長に就任。専門分野は肺がん。
4つの要因が重なり合って患者・家族のQOLが低下する
「QOLを低下させる要因は、患者・家族が置かれた状況で違ってきます。例えば、抗がん剤などの薬物療法を受けている場合は、脱毛、手足のしびれ、吐き気・嘔吐、食欲不振、味覚障害など、特に悩まされる副作用がいくつかあり、それらが患者さんのQOLを著しく低下させます。
また、投与中は期待される効果が得られるのか、予定された治療を中断せずに完遂できるのかといった心理的負担も伴います。さらに近年はがん治療薬が高額化しており、長期化すると経済的な不安が出てきて、そのことがQOLを低下させる一因にもなります」と山本先生は説明します。
つまり、低下の要因は一つではなく複数が重なり合っているのです。
サポーティブケアのほぼ同義語として認識されている緩和ケア(パリアティブケア)では、QOLを低下させる要因として身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛の4つを挙げ、それらが重複することで全人的苦痛(トータルペイン)を引き起こすため、QOLを改善するには包括的なケアが必要であると考えられています(下図)。
患者・家族のQOLを低下させる要因(苦痛)は4つに分類される
●全人的苦痛(トータルペイン)をもたらす背景
参考文献:WHO Definition of Palliative Care,World Health Organization(WHO)
「当学会においても4つの苦痛、および全人的苦痛に対応する支持医療の観点から包括的ケアの提供を目指しています」と山本先生。同学会では17部会・11ワーキンググループを設置し、多方面から患者・家族のQOLを高めるための研究と実践法の開発に乗り出しています(下表)。
身体的苦痛を中心に支持医療の研究や対策が行われている
●日本がんサポーティブケア学会で取り組んでいる主な研究・対策〈身体的苦痛〉●がん悪液質の発症メカニズムの解明と治療戦略の確立
●化学療法に伴う悪心・嘔吐対策
●発熱性好中球減少症マネジメント、がん治療に伴う感染症対策
●がん治療に伴う緊急性の高い合併症対策
●がんに伴う身体的疼痛対策
●漢方薬の活用法(副作用対策など)の開発
●がんの進行・治療に伴う機能障害・ADL低下に対するリハビリテーションの活用
●骨転移による症状マネジメント
●化学療法に伴う末梢神経障害マネジメント
●がん治療に伴う粘膜障害マネジメント
●がん治療に伴う皮膚障害マネジメント
●リンパ浮腫マネジメント(身体的症状bの改善、QOLの維持向上)
〈精神的苦痛〉●がん医療における精神心理的課題への検討・対策
〈社会的苦痛〉●高齢者のがん治療に伴う課題への検討・対策
●患者・家族・遺族へのアドボケイト支援
●サバイバーシップ支援(患者が自分らしく生きられる社会の実現)
●患者の生殖に関連する対策・支援
日本がんサポーティブケア学会の公式サイト「部会」のページを参考に作成。詳細については同学会の公式サイト(後述)を閲覧してください。
この中には、患者・家族ががんと向き合い自分らしく生きられる社会づくりを目的とする「サバイバーシップ」、患者・家族が支持医療の研究や実践に参加することで質の高い支持医療を享受できることを目指す「患者・市民参画」といった新しい視点の取り組みも含まれています。
相談・支援先に困ったときは近くのがん相談支援センターへ
がんサポーティブケアのもう一つの大きな特徴は、これまで支持療法を中心的に担ってきた医師、看護師、薬剤師に加え、さまざまな職種がかかわっていることです。「約1400名の当学会員のうち、約半数は医師以外のメディカルスタッフです。がん医療の現場においても管理栄養士、理学療法士、作業療法士、公認心理師、医療ソーシャルワーカーなど多職種の力を結集し、全人的なアプローチからがんサポーティブケアを提供する動きが起こっています」と山本先生は説明します。
同学会では、職種にかかわらず、がんサポーティブケアを包括的に提供できる人材の認定制度を準備中です。早ければ2026年度に支持医療のエキスパートが誕生する予定です。「国が全国に463か所指定しているがん診療連携拠点病院では、がんサポーティブケアの提供体制が整ってきていますが、患者さんやご家族の立場からいえば、支持医療を受けたいとき、誰に相談していいのかわからないのが実情です。こうした人々にとって当学会の認定資格は大きな目安になるでしょう。今、患者さんやご家族ができる対応は、身体的苦痛は担当医にきちんと伝え、それ以外の苦痛はがん診療連携拠点病院に併設されているがん相談支援センターに相談するのがよいです(下表)」と山本先生はアドバイスします。
「がん相談支援センター」に相談できること
〈検査・治療・副作用〉●自分のがんや治療について詳しく知りたい
●担当医から提案された以外の治療法を知りたい
●セカンドオピニオンを受けられる場所を知りたい
〈医療者とのコミュニケーション〉●担当医の説明が難しい
●医療者に自分の疑問や希望をうまく伝えられない
●何を聞けばいいのかわからない
〈療養生活の過ごし方〉●治療の副作用や合併症と上手につきあいたい
●自宅で療養したい
〈心のこと〉●気持ちが落ち込んでつらい
●思いを聞いてもらいたい
〈経済的負担や支援について〉●活用できる助成・支援制度、介護・福祉サービスを知りたい
●介護保険の手続きを知りたい
●仕事や育児、家事のことで困っている
〈家族とのかかわり〉●家族にどう話していいのかわからない
●家族の悩みも相談したい
〈社会とのかかわり〉●仕事を続けながら治療できるのか
●職場や学校にどのように伝えればよいのか
『がんの冊子 社会とがんシリーズ がん相談支援センターにご相談ください』がん情報サービス がん情報編集委員会編(国立がん研究センター発行)を参考に作成。