
お話を伺った方
山田 悟先生
やまだ・さとる 医師、医学博士。北里大学北里研究所病院病院長補佐、糖尿病センター長。無理のないゆるやかな糖質制限「ロカボ」を提唱し、日本における糖質制限のトップドクターとして、患者の生活の質を上げるために糖尿病治療に取り入れている。日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医。著書に『糖質疲労』(サンマーク出版)など、多数。
食事の後はソファでぐったりしてしまう、昼食後の午後の仕事は猛烈な眠気に襲われる……。食後にだるさや眠気を感じる、またはお腹いっぱい食べたはずなのにすぐに小腹が減って何か食べたくなる、集中力が続かない。こうした症状は、過剰な糖質摂取により起こる、「糖質疲労」の可能性があります。
「だるさや疲れやすさは、年齢のせいかな?」と感じている方も多いかもしれませんが、実は食事のたびに繰り返される食後高血糖と血糖値スパイクで、糖質疲労が慢性化しているからかもしれません。
そもそも現代の日本人の食事は、世界的に見ても糖質過多でタンパク質不足です。日本の成人は、1食あたり90~100g、1日あたりで270~300gもの糖質を摂っています。おむすび1個の糖質量が約40gですので、1食で2個以上の糖質を摂っていることになります。
「炭水化物は少なめにしているから大丈夫」という方に多いのが、間違えた健康習慣による無意識の糖質摂取です。例えば、たっぷりのフルーツ。果物は、ビタミンや食物繊維を摂取するには優秀な食材ですが、果糖をはじめとする糖質がたくさん含まれています。果糖は血糖値を上げにくいものの、体内で中性脂肪に変換されて肥満や脂肪肝を引き起こしやすいうえ、血糖値を下げるインスリンの働きを抑えることが報告されています。
美肌のために摂っている美容ドリンクや、腸内環境を整えるために飲んでいる乳酸菌飲料も、飲みやすいように甘味料が追加されていることがあるので要注意。睡眠の質を改善するとうたっている乳酸菌飲料は、1本(200mL程度)あたり、14~27g程度、角砂糖にすると3~5個分に相当する糖質が含まれています。
このように、体にいいと思って続けている習慣が、気づかないうちに糖質疲労を招いているかもしれないのです。今一度、「糖質量」という視点で、日々の健康習慣を振り返ってみてください。
糖質に偏った食生活が長年続き、健康診断や人間ドックなどで測定する「空腹時血糖値」が110mg/dL以上となると、糖尿病や糖尿病予備軍と判断されます。ですが、健診で測るのは“空腹時”の血糖。食後高血糖は、空腹時血糖値の異常が指摘される10年以上も前からすでにあらわれています。
だからこそ、「だるさや眠気はいつものことだから」と軽視してはいけません。糖質の過剰摂取による糖質疲労は、さまざまな生活習慣病の始まりとなります。
まず、血糖値スパイクが繰り返されることで血管内に発生するのが酸化ストレスです。酸化ストレスは血管内壁にダメージを与えて、免疫異常を起こしたり細胞や遺伝子を攻撃したりします。また、血糖異常が続くことでインスリンを分泌する力も弱くなり、摂取した糖質を燃やせなくなります。
その結果、内臓脂肪が蓄積して肥満やメタボリックシンドローム、脂肪肝となり、高脂血症、高血圧といった病気につながります。その先には、動脈硬化によって起こる脳血管障害や虚血性心疾患、脳卒中、心不全などの命にかかわる病気も待ち構えています。
当然ながら、高血糖が続くことで糖尿病や、それによる腎症・網膜症・神経障害の合併症のリスクも上がります。
一方、タンパク質摂取量は、国民・健康栄養調査のデータでは、2000年代頃から低下し、1950年代の水準まで下がっています。ダイエット志向の高まりで成人の食事量が減っている、しかも食事内容が糖質に偏っていることなどが原因と考えられます。飽食の時代にもかかわらず、戦後間もない時期と同じくらいのタンパク質摂取量に落ち込んでいます。
写真/PIXTA 取材・文/釼持陽子