【今月の解説者】
名古屋大学糖鎖生命コア研究所
特任教授
中村昭範先生 
なかむら・あきのり 国立長寿医療研究センターで認知症の早期診断や病態把握に役立つバイオマーカーを複数の画像検査を組み合わせて開発する研究に従事。2014年、島津製作所との共同研究により免疫沈降と質量分析を組み合わせた血液診断で脳内のアミロイド蓄積を検出できることを世界で初めて示した。脳神経内科専門医。現在は国立長寿医療研究センターもの忘れセンターでの診療にも従事。
無症状の時期から脳の病変を検出し発症を予防する未来へ
有用なバイオマーカーの登場で脳の病理を推定できるように
認知症の原因として最も多いアルツハイマー病。脳内にアミロイドβ(Aβ)やタウ蛋白が蓄積することで神経細胞の変性が進行し、脳の萎縮や認知機能の低下が生じ、認知症を発症します(図)。
図 アルツハイマー病の病態進行を調べる検査

Jack et. al. Lancet Neurol
(2010/2013)より改変して引用
「以前は脳の状態を確認するのに患者の死後、解剖する方法しかなかったのですが、1990年代から2000年代に、生きている患者の脳の状態を確認できる有用なバイオマーカー(脳脊髄液検査、アミロイドPET、タウPET)が開発されました。
アルツハイマー病の各段階で脳の病理を推定できるようになったことで病気の概念が大きく変わり、アルツハイマー病は20~30年かけてゆっくり進行する連続的な病態であることが判明しています」と中村昭範先生は解説します。
さらに2023年以降にはアミロイドβを標的にアルツハイマー病の進行を抑える疾患修飾薬であるレカネマブやドナネマブの軽度認知障害や軽症アルツハイマー病への投与が始まっています。
「アルツハイマー病の治療は、より早い段階で脳内のアミロイド蓄積を検出し、発症や進行を予防する方向に発展していくことが予測されます。それには脳脊髄液検査やPET検査よりも低侵襲かつ低コストでアミロイド蓄積を検出できる検査が不可欠で、血液バイオマーカーに大きな期待が寄せられているのです(表)」。
表 アミロイド蓄積やタウ蛋白蓄積を検出するバイオマーカーの比較

中村昭範先生提供資料を参考に作成
中村先生たちは14年、島津製作所との共同研究で患者の血液中のアミロイドβ42などを測定することで脳内のアミロイド蓄積を高精度に検出できることを示しました。この研究をきっかけに国内外で血液バイオマーカーの開発が活発化し、アミロイドβ42/40比のほかpタウ217など有望な指標が見つかっています。そして、その検出精度は脳脊髄液検査やPET検査の精度にかなり近づいてきました。
「25年5月には米国食品医薬品局から検査試薬が承認されるなど実用化が目前に迫っています。将来、予防医療の分野でアルツハイマー病のスクリーニングマーカーとして活用されることも大いに期待されています。
その頃には今よりも副作用が少なく予防効果の高い疾患修飾薬が開発され、生活習慣病のように健康診断や人間ドックの血液検査でアミロイド蓄積を調べ、無症状のうちから薬や運動・食事・認知トレーニングなどを組み合わせたアルツハイマー病の予防医療が始まる未来がやってくるかもしれません」
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