【今月の解説者】
愛知県がんセンター
消化器内科部・内視鏡部 医長
桑原崇通先生 
くわはら・たかみち 膵臓・胆道疾患を中心に診療を担当。名古屋大学大学院時代から画像解析の研究に取り組み、人工知能を用いた診断にも注目。科学研究費助成事業「膵疾患に対する人工知能を用いた自動診断の研究」や「人工知能を用いた膵疾患診断に対する有用性の検証」などの研究代表者を務め、膵臓がんの早期発見をサポートする超音波内視鏡診断支援ソフトウェアの開発にもかかわる。
微細な病変をリアルタイムで検出・鑑別「内視鏡AI技術」ディープラーニングで画像解析の精度が飛躍的に向上
AI技術の活用で膵臓がんの早期発見率の向上に期待
近年、あらゆる分野においてAI技術が盛んに活用されるようになってきた中、医療分野では画像解析の診断支援にAI技術が積極的に使われています。「なかでも日本は内視鏡検査の診断支援において世界をリードする存在です」と画像解析研究の専門家で、AI診断支援システムの開発にも従事する桑原崇通先生は説明します。
内視鏡検査の診断支援にAI技術を応用できるようになったのは、AIを作る技術としてディープラーニング(深層学習)が開発されたからです。これは、人間の脳が持つ神経回路の仕組みを取り入れたニューラルネットワークを使って大量のデータから複雑なパターンを学習し、画像認識や音声認識、自然言語処理などのタスクを効率的に行える技術です。この技術を活用し、過去の膨大な臨床データを読み込ませたAI診断支援のソフトウェアを作り出すことが可能になりました。「それまでAI技術を使っても画像解析の精度はそれほどよくなかったのですが、ディープラーニングの技術を活用することで精度が格段に向上しました」と桑原先生は評価します。
こうして内視鏡検査の分野で2019年に実用化されたのが大腸ポリープの鑑別支援です。「その後に検出サポート機能が追加され、現在では検出と鑑別を支援するタイプが世界標準です。日本では健康保険が適用されています」(桑原先生)。22年には、早期の胃がんや食道がんの検出を支援する内視鏡AIソフトウェアが発売されました。さらに24年12月には、富士フイルムが開発し、桑原先生もかかわった膵臓がん(膵充実性病変)の検出を支援するAIソフトウェアが日本で初めて薬事承認され、25年内には臨床で使えるよう準備が進められています(図参照)。
内視鏡AI技術の仕組み(膵臓がんへの臨床応用例)

画像提供/富士フイルム
「気づいたときには手遅れのことが多く、サイレントキラーといわれる膵臓がんも早期に発見できると5年生存率は80パーセントを超えます。その手段として超音波内視鏡が最も有効ですが、この検査は難易度が高いため、病変が見落とされることが少なくありません。超音波内視鏡でAI診断支援が使われるようになると救える命が増えるでしょう」と桑原先生は期待を寄せます。
また、現在は主に診断分野で活用されていますが、AI診断支援システムの研究・開発が進んでいけば、がん検診などのスクリーニングに使われる未来がやってくるかもしれません。