〔特集〕腸内細菌「酪酸菌(らくさんきん)」を育てて健康ライフ 食べる免疫力 腸には全身の免疫機能の約7割が備わっています。免疫機能が活性化するのは、各種の有用な腸内細菌の連携プレーがあってこそです。その中でも要注目なのが、有用菌の一つである「酪酸菌」。腸内で酪酸を産生して免疫力の高い体作りに関与しています。酪酸菌を増やし育てる食生活を心がけることで、健康長寿を目指しましょう。
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健康長寿の鍵を握るのは、腸内細菌「酪酸菌(らくさんきん)」
[お話を伺った方]京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座 教授
内藤裕二先生
内藤裕二(ないとう・ゆうじ) 京都府立医科大学卒業。米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授。京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学教室准教授および同附属病院内視鏡・超音波診療部部長を経て2021年4月より現職。専門は腸内微生物学・消化器病学・抗加齢医学。酪酸菌と健康長寿の関係などの研究をはじめとする腸内細菌研究の第一人者。著書多数。
免疫力の維持にかかわる「酪酸菌」

腸内細菌と病気との関連性の研究が世界的に進むなか、肥満、糖尿病、炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、認知症、大腸がんなど多くの疾患と腸内細菌のパターンの関連が解析されるようになりました。
そこで注目されているのが、酪酸菌。酪酸菌は、腸内で発酵する食物繊維を餌として産生される腸内代謝物質である短鎖脂肪酸の一種、酪酸を作る有用菌です。酪酸菌には自分の体を攻撃する免疫システムの暴走を抑える免疫細胞「制御性T細胞」が深く関与しています。免疫システムの暴走によって炎症の増加やアレルギー反応が引き起こされます。
大腸では潰瘍性大腸炎、消化管全域ではクローン病、関節では関節リウマチなど自己免疫疾患として表れます。これらの疾患では、制御性T細胞が減少していることが判明し、同時に酪酸菌の減少も報告されています。
では、炎症を抑制する制御性T細胞を発現するにはどうしたらよいのか。慶應義塾大学と東京大学の研究により、17種類の腸内細菌のカクテルが“酪酸菌”を介して制御性T細胞を誘導していることが2013年に発表され、酪酸菌が注目を集めました。
酪酸菌が病気から体を守る役割
酪酸菌が免疫にかかわる役割はすでに解明されています。例えば、体内に侵入するウイルスや細菌を見つけて攻撃する自然免疫系のマクロファージに影響を与え、ウイルスや細菌感染の抑止に関与します。大腸がんの細胞に対しては、がん抑制遺伝子を活性化し、がん予防に関与していることが判明しています。
新型コロナウイルス感染症の感染や重症化の予防もその一つです。
健康長寿を目指すには酪酸菌を増やすこと
日本人の平均寿命は、女性が87.14歳、男性は81.09歳。そのうち健康寿命は女性が75.45歳、男性は72.57歳。10年近く健康を害した状態が実態です。主な死因は悪性新生物(がん)が1位で、男女ともに大腸がんが上位。次に心疾患、脳血管疾患となっています。
ところが、日本一「百寿者」の人口割合が多い京丹後市とその周辺地域での高齢者の健康調査では、全国の死因データと比較して大腸がんは20パーセントと低く、心疾患、脳血管疾患ともに罹患率が低いことが判明。
また、65歳以上の人の腸内細菌を調べたところ、酪酸菌が多く、90代でも日常生活を楽しめる健康を維持していることがわかりました。よって、健康寿命の維持には酪酸菌が関与しており、酪酸菌を増やすことが免疫力を高く保つ秘訣といえるでしょう。