〔特集〕誌上でゆっくり学ぶ・愛でる 京都の“別格” 京都では合わせて17の寺社が世界遺産に登録されていますが、平安遷都にあたり大きな意味を持った構成資産が2か所あります。桓武天皇が遷都の成功を祈願した京都最古の下鴨神社と新しい都を守るために作られ、平安京造営の起点となった東寺です。千年の都では、世界遺産以外にも名所・名刹は数しれず ── 深淵なる京都の別格を訪ね、日本の真髄(こころ)を学びます。
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京都最古の社
下鴨神社で森の教えを学ぶ
縄文時代の植生が残る原始の森の紅葉古代の山城原野の植生が残された京都随一の貴重な森。ケヤキ、エノキ、ムクノキ、カツラ、カエデなど約40種の樹木が枝を伸ばす。広葉樹が多いため、見事な紅葉が見られる。 写真/ゆうた1127(ピクスタ)
小山薫堂さんと学ぶ
糺(ただす)の森の教え
江戸時代前期に建立された楼門前にて、大塚さん(左)と小山さん(右)。背後の木は朴の木。
小山薫堂さん(こやま・くんどう)1964年熊本県生まれ。放送作家、脚本家。脚本を手がけた映画『おくりびと』で第81回米国アカデミー賞外国語映画賞を受賞。2012年より下鴨茶寮主人、2017年より京都芸術大学副学長を務める。2014年より、京都の情報を紹介するWEBサイト「京都館」の館長を務めている。
人と自然とが共存する縄文時代からの聖地
賀茂川と高野川が合流する三角洲に位置する、糺(ただす)の森。2つの川が合流するデルタは世界的にみても聖地ですが、賀茂御祖(かもみおや)神社(下鴨神社)の鎮守の森は、社殿が建立される以前から、人々が神を崇め、祈りを捧げる神聖なる地でありました。下鴨神社は、平安遷都にあたり、桓武天皇が遷都の成功を祈願し、以降別格の地位を与えた京都で最も古い神社の一つで、1994年、全域が世界遺産に登録されています。
そのすぐそばにある「下鴨茶寮」の主人を2012年から務め、朝、糺の森を散策するのが好きだという小山薫堂さんとともに、糺の森、そして下鴨神社の教えを学びます。解説してくださるのは、下鴨神社権禰宜の大塚高史さんです。
総面積12万4000平方メートルという広大な糺の森は、ニレ科の広葉樹が多いため、秋には錦秋の森となります。
「人の手が入っていない、約2000年前の植生のままの森です。応仁の乱をはじめとする戦禍や災害などを経て、現在の樹木の多くは、樹齢約400年といわれています」と大塚さん。
「住宅地の中にこれほど豊かな森があるということが、まず奇跡のようです。季節によって色が変わる木漏れ日を眺めながら歩いていると、時間がゆっくり流れているように感じます」と小山さん。
森の中には、古代の人々が祈りを捧げた祭祀遺跡が数か所確認されています。その代表的な場所が「奈良殿神地(ならどのかみのにわ)(舩=ふな島)」です。
「御手洗(みたらし)池の湧水と泉川の支流が合流する水際にある、古代の祭祀場です。平安時代以前からの石積みの磐座(いわくら)で、雨乞いの祭祀が行われていたと記録されています」(大塚さん)
「特に朝、糺の森を歩くと、空気が澄んでいるように感じられ、自分の中にあるざわつきが少しずつ消えていくような感覚になります。古代の人々がこの糺の森に感じた清らかさを、私を含めた現代人も感じているのかもしれません」と小山さん。
糺の森には、奈良の小川、瀬見の小川、泉川と、小さな川が流れています。水面を眺めていると、あちこちでぽこり、ぽこりと水泡が浮かび、水が湧いているのがわかります。古来、水源は聖地の発祥地。豊かな水と緑をたたえる森は、多様な生きものの命をも育んでいます。手つかずの鎮守の森は、神様が降臨する木も、神様のお使いをする動物も、森羅万象に神が宿るとする多神教の小宇宙。生きとし生けるものすべてが仲よく、共生することの大切さを教えてくれています。
「森には、フクロウの一種であるアオバズクや、シジュウカラ、ヤマガラなどの鳥類をはじめ、タヌキやイタチなどがいます」と大塚さん。
「下鴨茶寮の庭にもタヌキが現れたり、夏には、客室から高野川で水浴びする鹿が見られたりします。糺の森は、人と自然とが無理なく共存する場といえるのかもしれません」(小山さん)
大塚高史権禰宜に教わる重要スポット
東京ドームの約3倍の広さを誇る糺の森。そぞろ歩くだけで、風の音や木漏れ日の中に神の存在が感じられる京都随一の聖地です。散策の目印となる3つのスポットを教わります。
舩(ふな)島 ── 古代祭祀場跡
奈良殿神地(ならどのかみのにわ)
本宮祭神が天鳥舩(あめのとりぶね)に乗り降臨したという伝承と島の形から舩島と呼ばれる古代祭祀場跡。周辺から平安時代後期の土器が多数出土。
方丈の庵
下鴨神社禰宜長継の次男として生まれた鴨長明が晩年の住まいとした組み立て式の庵。建築家の中村昌生氏が『方丈記』をもとに復元。
小川
糺の森の名前の由来は諸説あるが、清らかで澄んだ水が湧き、多くの小川が流れていることから「直澄(ただす)」と呼ばれたという説も。
(次回に続く。
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