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若菜晃子さんが“森初心者”におすすめする5つのトレッキングルート

自然がくれる癒やしの力 日本の「新緑遺産」第2回(全13回)今、森の中を歩いていると想像してみてください。土の匂い、小枝を踏む音、鳥のさえずり、葉擦れの音、木漏れ日など、五感を通して自然が私たちに語りかけてくれます。新緑が美しくなるこの時期、自然の中で、また自宅で、「森の効用」を取り入れる暮らしを提案します。前回の記事はこちら>>

森に憩う、森に遊ぶ

現代人の心と体を癒やす効果が認められている森の力。初心者でも楽しめる5つのトレッキングルートとともに、森を愛し、森に遊ぶ人たちに、それぞれの楽しみ方を習います。

森に遊ぶ人-若菜晃子さん(エッセイスト・編集者)
「森の中には日常と異なる世界がひそやかに存在している」

森に憩う、森に遊ぶ
リュックを背負い、地図とカメラを手に、初夏の八ヶ岳の森の小径を歩く若菜晃子さん。

ブナ嵐の森
文・若菜晃子

ある年の5月の初め、以前から行きたかったブナの森に出かけるので、近くの宿の予約を取った。そのときに応対してくれた宿の人が、「今がいちばんいい時期ですよ、ブナの新芽を包んでいた皮が風で一斉に舞い散って、それはきれいなんです」と言って、「このあたりではブナ嵐と呼んでいるんです」と教えてくれた。

寒さ厳しい冬の間、翌年の新芽を大事に包んで守っていた皮は、その名も芽の鱗と書いて芽が鱗りんという。芽鱗は春が来て次第に暖かくなると、その役目を終え、ゆっくりとはがれて枝を離れ、風に乗って飛んでいくのだ。

森に憩う、森に遊ぶ
若菜さんは山に登り、森を歩くときには必ずフィールドノートを携行する。「日々の自然の記録であり、自分だけの観察記でもあります。折々の自然の姿や出来事を忘れてしまうのは惜しいので」

それから数日後、森を訪れると、ブナの新芽はもうすでに芽鱗を脱いで、小さな若葉を出していた。みなそれぞれに朝の光を受けてまぶしく光っている。

手の届く位置にある枝先を見ると、銀色の細かい産毛をみっしりつけた、淡い黄緑色の葉が数枚ずつ、そろそろと開きかけている。長い間芽鱗の中で窮屈に折り畳まれていたので、葉脈に沿って蛇腹状になっている。出たての若葉は薄く、向こうが透けるほどで、葉の端は赤みを帯びている。まだ赤ちゃんだから、やっぱり赤いんだな。その葉の付け根に金茶色の芽鱗の一部が細いリボンを結んだように残り、それらがそよ風に音もなく、小刻みに、ひらひらひら……ハタハタハタ……と揺れている。

時折、森を渡る風の音が梢の上の方でごぉーっと聞こえると、無数の芽鱗が降ってくる。髪にも服にも開いた掌にもくっついて、またいずこかへ飛んでいく。足もとにはそうして舞い落ちた芽鱗が、去年の秋に落ちた葉や実の殻の上で金色に輝いている。

こうして木々は違う時間を生きていて、人間とは関わりなく動いているのだなと思う。もう2、3日もすれば、新芽から出たばかりの淡い色の若葉は次第に色が濃くなって、また違う森の姿へと移り変わっていくのだろう。今日ここで見ている森は今日しかない。だから今は、できるかぎりこのブナ嵐の中を歩いていたい。

森に憩う、森に遊ぶ
若菜さんが森に入るときに携行するもの。軽量なリュックサックには、雨具、ヘッドライト、カメラ、お気に入りのおやつ、コーヒーをいれるセット、ノートとペンなどが入っている。地図を見慣れた人にとって、紙の地図はルートの全体像を把握し、自分の位置を確認するために便利。

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