〔特集〕次世代に伝え継ぎたい 桜絶景を求めて 日本が世界に誇るべき「美しい桜の風景」は、そのどれもがそれを守ろうとする人々の確かな意志によって支えられています。将来の日本人の美意識のために次世代に伝え継ぎたい桜絶景はどこか。長年、桜名所や桜を守る人々を取材してきた家庭画報本誌が、現在の手入れ・管理状況なども踏まえつつ、改めて桜の専門家とともに「新・桜100景」として厳選し紹介します。
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独特な桜景色がそこに
桜を求めて“済州島”を旅する
韓国南端の島、“韓国のハワイ”と称される済州(チェジュ)島。韓流ドラマにも頻繁に登場するこの島は、春には桜色に包まれます。独自の歴史と文化、火山島特有の地形と結びついた桜絶景と美食を楽しみに、日本から一番近い海外のリゾート島へ出かけてみませんか。
済州島最初の仏教寺院で心静かに桜を愛でる
観音寺(クァヌムサ)
参道を進んだ先の「天王門」右手にある「永楽園」(ヨンラクウォン)と桜。観音寺がある漢拏山は、桜の自生地としても有名。境内には、天然記念物に指定されている桜の木もある。
漢拏山(ハルラサン)の中腹に位置する観音寺。森の中にたたずむのは、伝統的な彩画技法「丹青(タンチョン)」(赤・青・黄・白・黒)で彩られた、色鮮やかな伽藍。桜とのコントラストが見事です。
済州島最古の聖地。建国神話の舞台に咲く桜
三姓穴(サムソンヒョル)
1849年創建とされる「祟報堂」(スンボダン)と桜。敷地内では済州島の古代史を解説するパネルやアニメーションの上映も。
韓国南端の島・済州島は、1105年まで「耽羅(タムナ)」という独立した王国でした。その歴史が色濃く残る旧跡が「三姓穴」です。ここに祀られているのは、地に穿たれた3つの穴。この穴から高乙那(コ・ウルナ)、良乙那(ヤン・ウルナ)、夫乙那(ブ・ウルナ)という名の三神が出現し、後に農耕と牛馬の飼育を始めたと伝わる、建国神話の舞台です。今なお信仰の対象として大切に守られ、折々に祭りが執り行われています。市街地にありながら、樹齢数百年の木々がうっそうと繁る、静謐な場所です。
3つの穴に向けて枝を伸ばす、満開の桜。韓国の国家指定文化財史跡に指定されている。(写真提供/済州観光公社)
この地には、「三姓穴から暖かな空気が流れ出てくるため、穴の周囲だけは冬でも雪が積もらず、周りの木々も穴の方向に向けて枝を伸ばす」という不思議な言い伝えも。桜もまた、この穴に向けて満開の枝を伸ばし、花びらを散らします。済州という土地の記憶が感じられる風景のなかで咲き誇る桜を、静かに仰ぎ見る。花見の賑わいとはひと味違う、旅の情感溢れる桜の景色です。
日本の“染井吉野”とは違う済州島の「王桜(ワンボンナム)」
── 勝木俊雄(樹木学者)

日本の“染井吉野”は韓国だとワンボンナム(왕벚나무)と呼ばれるが、この言葉が示す対象は誤解されることがある。明治時代に日本で“染井吉野”が広まると、朝鮮半島にも植えられた。その時につけられた名前がワンボンナムで「王桜」を意味する。ところが、1912年に済州島で“染井吉野”に似た自生のサクラが発見された。そのため当時の植物学者は、この済州島の野生集団の中に“染井吉野”の原木があったと考え、「“染井吉野”済州島起源説」が生まれた。韓国では現在もこの済州島起源説が広く知られているが、日本では過去のものとなっている。
というのも、“染井吉野”はエドヒガンとオオシマザクラの種間雑種であり、クローン増殖されている栽培品種であることがその後の研究で明らかとなったからである。一方、済州島のサクラは、島に自生するエドヒガンとオオヤマザクラの種間雑種で、“染井吉野”とは花や葉の形態に違いが見られ、研究者であれば識別することもできる。ただし、韓国では“染井吉野”と済州島の雑種、さらにはこれらが交雑したものも含め、すべてワンボンナムとして栽培されている。これらを正確に識別することは研究者でも困難で、一つの栽培品種グループとして扱われるのは、致し方ない状況であろう。
勝木俊雄(かつき・としお)国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 九州支所 支所長。30年以上にわたり桜を研究しており、2018年には新種の野生の桜「クマノザクラ」の発見を発表した。桜に関する著書も多数。
今回ご紹介している済州島・桜名所の詳細はこちらから[VISIT JEJU]済州観光公社が運営する公式観光情報ポータルサイト※本特集の換算レートは、100ウォン=約11円(2026年2月1日時点)(次回に続く。
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