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チャールズ国王による、新しい英国王室のかたち。英国王室ゆかりの地を訪ねて

2023.08.17

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〔特集〕新時代の王室を祝い、活気ある街を旅する 新しい英国 
2023年5月6日、エリザベス女王のとき以来70年ぶりに戴冠式が行われました。新国王チャールズ3世誕生に沸くイギリスで、王室ゆかりの場所と、ロンドンから少し足を延ばして訪れたいマナーハウスへご案内します。前回の記事はこちら>>

英国王室ゆかりの地を訪ねて

1066年ノルマン王国の成立によりその原型が作られたとされる英国王室。長い歴史の中でさまざまな形で貴重な遺産が受け継がれています。ロイヤルファミリーが居住する宮殿、御用達の老舗、キャサリン皇太子妃が愛する名店を訪ねます。


バッキンガム宮殿

敷地面積約1万坪。歴代の国王の壮大な公邸
バッキンガム宮殿(Buckingham Palace)

1703年にバッキンガム公爵により建てられ、1837年のヴィクトリア女王の即位時に王室の宮殿となった。現在も国王の私邸であるが、夏季限定で、宮殿内の一部が一般公開される。内部は絢爛豪華で見どころが多い。

Buckingham Palace, London SW1A 1AA
TEL:+44(0)303 123 7300
公開期間:7月14日~9月24日 (開)9時30分~19時30分(9月は~18時30分) 火曜・水曜休 入場料33ホンド(オンライン事前購入30ホンド)

チャールズ国王による、新しい英国王室のかたち

文・君塚直隆(関東学院大学教授)

2023年5月6日、チャールズ3世英国王の戴冠式がウェストミンスター寺院で厳かに執り行われた。イングランドで続く戴冠式が始められたのは今から1000年以上前のこと。その歴史と伝統を守りつつも、「チャールズ流」というべき側面が今回の戴冠式には随所に見受けられた。

チャールズ国王は、ケンブリッジ大学の学生だった20歳の頃から、二つの問題に特に関心を持ち続けてきた。一つは地球環境の保全である。1960年代後半においては、それは「変人」扱いされるあまりにも時代を先取りしすぎた感覚であった。ところが時代のほうがようやく彼に追いついてきた。国王は国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)にもたびたび出席し、世界中の指導者から一目置かれてきた。

今回の戴冠式でも、聖油を国王の頭に注ぐ塗油の儀式の際に使われた仕切り幕には、自然をこよなく愛する新王を象徴するかのように、大きな木が見事な刺繍で描かれ、56枚の木の葉にはコモンウェルス(旧英連邦)に加盟する国々の名が縫い取られていた。

そして国王が地球環境問題と並んで学生時代から関心を示してきたのが、異なる宗教間の対話という課題であった。彼は学生時代からコーランを学び、イスラーム世界で最も権威あるいくつかの研究機関から名誉博士号を授与されている。キリスト教徒への授与は彼だけである。さらに日本にもこれまで5回訪問されているが、そのたびに京都・奈良や東京の名だたる名刹を訪れている。

今回の戴冠式では、王が冠を受けた後に「あなたをこの国の王と認める」という承認は、チャールズが首長を務めるイングランド国教会や擁護者であるスコットランド教会だけでなく、カトリックや東方正教会など、イギリスで活動するすべての宗派の指導者によってなされている。さらに王が寺院から退場する際の出口では、仏教、イスラーム教、シク教、ユダヤ教など各宗教の指導者たちからも挨拶を受けている。そしてキリスト教と直接的に関わりのない宝物を運ぶ役割は、他宗派・他宗教の人々にも割り当てられた。

70年前に行われた母エリザベス女王の戴冠式では、白人、男性、イングランド国教会がすべてを取り仕切っていたが、それはチャールズによって、非白人、女性、他宗派、他宗教へと大きく門戸を拡げる儀式に様変わりしたのである。

このように現代世界においてきわめて大切な問題にいち早く気づき、長年実践してきた国王は、21世紀の英国王室にとって重要な存在となっていくだろう。

とはいえ、今回の戴冠式にあたって行われた世論調査では、若者の王室に対する関心が薄れている現実が浮き彫りになった。昨年9月に崩御して70年にわたる在位を終えたエリザベス2世女王は、老若男女すべての人々から愛された君主であった。しかしその女王も1997年の「ダイアナ元皇太子妃の事故死」の直後には、「慈善事業に精を出しているのはダイアナだけで他の王族は何もやっていない」という誤解を国民から受けていた。

実は晩年だけ活動したダイアナとは異なり、英国王室は1760年代から国民のための様々な団体を立ち上げ、王族15人ほどで3000に近い団体の長を務め、年間3000件を超す公務に奔走していたのだ。チャールズ皇太子(当時)も、低学歴の青少年に職業訓練を施して社会へと送り出していく団体を立ち上げ、半世紀近くを経た現在までに100万人近い人々がそこから巣立っている。こうした活動を王室はホームページやユーチューブ、ツイッターやインスタグラム等を活用して国民に発信し、2012年の女王の「即位60周年記念(ダイヤモンド・ジュビリー)」までにそれは多くの国民に知られるようになる。

70年に及び女王が残した足跡の「穴」を埋めることは、チャールズ国王だけでは難しい。王妃となったカミラ、さらにはウィリアム皇太子とキャサリン妃、そして3人のお子さんたちという「偉大なる7人(マグニフィセント・セブン)」総出で、これからの英国王室を盛り上げていくことになるだろう。

なお読者のみなさんには、チャールズ国王が皇太子時代から40年以上にわたって精魂込めて整えてきた、イングランド南西部にあるハイグローヴ庭園も是非一度訪れてほしい。無農薬の有機農法で育てられた植物や、そこで飼育されている動物を素材としているハムやソーセージ、卵などを味わうことができる。造園家としても有名な国王の精神がそのすべてに凝縮されているのをみなさんは即座に感じ取られることだろう。

きみづか・なおたか●関東学院大学教授。上智大学大学院修了。博士(史学)。専門はイギリス政治外交史。主な著作に、『立憲君主制の現在』(新潮選書、2018年サントリー学芸賞受賞)、『エリザベス女王』(中公新書)など。

ウィリアム皇太子、キャサリン妃一家の住まい
ケンジントン宮殿(Kensington Palace)

ケンジントン宮殿© Richard Lea-Hair
宮殿内で最も絢爛豪華な「The King’s State Apartments」へと続く螺旋階段。

ケンジントン宮殿右・宮殿の東側の庭。手前にはヴィクトリア女王の像が立つ。左・「クラウン・トゥ・クチュール」展では、18世紀の宮廷で王室や貴族がまとったドレスから、現代のセレブのドレスまで約200点が展示。
© Historic Royal Palace
© Monique Lhuillier

ヴィクトリア女王が生まれ育った宮殿で、現在はウィリアム皇太子一家が住んでいる。ヴィクトリア女王に関連する展示や王室のドレスコレクションを見ることができる。

Kensington Gardens, London W84PX 
TEL:+44(0)333 320 6000 
(開)10時~18時 月曜・火曜休 
入場料25.4ポンド(要オンラインで事前購入) 
2023年10月24日まで「クラウン・トゥ・クチュール」展を開催。月曜・火曜は別料金で特別ツアーあり。

チャールズ3世が手塩にかけたサステナブルな庭
ハイグローヴガーデンズ(Highgrove Gardens)

ハイグローヴガーデンズ© GAP Photos/Robert Smith
国王自身が設計した紫、ブルー、ピンクのカラースキームが美しいコテージガーデン。18世紀に建てられた伝統的なカントリーハウスを囲むようにして造られたこの庭では、絶滅の危機に瀕している在来植物も育てられている。

自然の乱開発に危機感を抱いていたチャールズ国王が、1980年代から有機農法により自ら造り上げた庭園。チャールズ国王とカミラ王妃の別邸でもある。

Highgrove House, Doughton, Tetbury,
Gloucestershire GL8 8TN 
TEL:+44(0)333 222 4555
ウェブサイトで開園日の確認を、要予約 入場料30ポンド

900年余の歴史を持つ国王の離宮
ウィンザー城(Windsor Castle)

ウィンザー城© Peter Smith Royal Collection Trust / © His Majesty King Charles III 2023
貴重な絵画が並ぶ女王の客間。他にも絢爛豪華な部屋が一般公開されている。

ロンドンの郊外にある、国王の公邸の一つ。11世紀にウィリアム1世がこの地に砦を築いたのが始まり。居城としては最古で、世界最大規模。

Windsor Castle, Berkshire, SL4 1NJ 
TEL:+44 (0)1753 743 900 
(営)10時~17時15分(11月~2月は16時15分) 
火曜・水曜休

※1ホンド=約181.7円(2023年7月11日現在)。施設や店の営業日や時間、料理の内容等は諸事情により変更になる場合があります。表示の料金には別途サービス料や税がかかる場合があります。事前に確認のうえ、お出かけください。

※次回に続く

特集「新しい英国」の記事一覧はこちら>>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2023年09月号

家庭画報 2023年09月号

撮影/武田正彦 コーディネート/長谷川友美 協力/英国政府観光庁 この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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