1951年、クリスチャン･ディオールは、風光明媚な南仏・プロヴァンス地方に位置するラ コル ノワール城を手に入れました。そして自らの理想を形にした楽園を創り上げようと、邸宅の修復や領地の整備に情熱を傾けたのです。

その庭園は彼の花々への愛を育んだノルマンディー地方の生家の庭を想起させるように設計され、広大な領地には、フレグランスの原料ともなるローズ ドゥ メや、さまざまな果実が実る農園も作られました。

「ここを私の終の棲家にしたい」と願っていたというクリスチャン･ディオール。そこは彼にとって、パリの喧騒を忘れられる安息の地でした。フレンチ リビエラの眩い太陽のもと、すべてが輝いて見えるその場所で、彼はクチュリエのスーツを脱ぎ捨て、ときに自らの手で花々を育て、農園での収穫に参加し、あるいは友人たちを招いて、幸福な時間を過ごしたのです。

「インスピレーションは、南仏・プロヴァンス地方で突然舞い降りてきました」と語るのは、フランシス･クルジャン。彼とフレンチ リビエラとパリをめぐる、「ディオリビエラ」が秘めたもう一つの愛の物語を紐解きます。

2021年、ディオール パフューム クリエイション ディレクターに就任したフランシス･クルジャン。翌年のバラの収穫期、彼はディオールのパートナーであるグラースの花農家を訪れ、ラ コル ノワール城に程近いバラ農園にも足を延ばしました。

その時、官能的で甘美なバラの香りとコントラストを描きつつも、優しく包み込むように漂ってきた予期せぬ香り。それが太陽に温められたイチジクの木の葉が放つ香りでした。ローズとイチジクの香りの出逢いが、彼の創造性を揺り動かした瞬間でした。

パリに戻り、記憶の中の香りとの遭遇を新しいフレグランスへと昇華させるべく、創作を開始したフランシス･クルジャン。幾度となく試作を重ねた末、魅惑的な香水、『ディオリビエラ』が完成しました。

それはローズとイチジクの調和。南仏の海岸を旅し、日差しを浴びて笑い合ったひととき、太陽の熱を帯びた体のセンシュアルな感覚が、パリでの活力ともなるように――。クリスチャン･ディオールが愛した地を描き出したこのフレグランスは、アート オブ リビング（幸せな生き方の指針）でもあるのです。