表千家・十五代家元 猶有斎 千 宗左宗匠の襲名後初
〔大丸松坂屋百貨店〕にて千家十職の新作展「千松会」を開催
茶の湯の精髄、
美の萌芽と出逢う
「千松会」と冠したこの展覧会は、大丸松坂屋百貨店と、表千家が三代にわたって継承してきた伝統ある茶道具の新作展です。
7年ぶりの開催となるその間、表千家では十五代 猶有斎(ゆうゆうさい) 千 宗左宗匠が家元を襲名し、千家十職においても三家の職家が代替わりを迎えました。
千松会で初のお披露目となる猶有斎宗匠のご染筆や茶杓をはじめ、新たな時代の息吹が兆した、千家十職による美の真髄に触れてください。
千家十職の茶道具が一堂に。
7年ぶり開催の千松会とは
戦後間もない1949年(昭和24)。松坂屋創業家である伊藤家と表千家十三代家元である即中斎宗匠との深い親交をご縁に、千松会は誕生しました。茶の湯の文化振興を目指し、毎年のように開かれていましたが、2004年に一旦中断。松坂屋創業400周年のアニバーサリーイヤーである2011年に再開してからは不定期で催されています。
千松会の魅力は、何といっても表千家の当代家元のご染筆をはじめ千家十職として知られる職家による新作が一堂に会することです。
今回は2018年に猶有斎宗匠が家元を襲名して以来、初めての会とあってこれまで以上に注目を集めています。さらに、前回(2015年)の開催から、職家においても表具師の奥村吉兵衛氏、茶碗師の樂吉左衞門氏、土風炉・焼物師の永樂善五郎氏の三家が代替わりを迎え、節目の展覧会としても見逃せません。
時代の感性を携えながら研鑚を積んだ作品を、家庭画報.comが先行してご紹介いたします。
千松会が発足した1949年当時の松坂屋名古屋店。4年後には全面改装工事が完成し、外壁も一新されました。
資料提供:J.フロントリテイリング資料館
即中斎宗匠による千松会のご染筆。千家の「千」と松坂屋の「松」の字を重ねた会の名称は、即中斎宗匠の命名によるものです。
過去に発表された即中斎宗匠によるご染筆(表具は奥村吉兵衛氏)。こうした作品と出会えることも、千松会ならではの悦びです。
表千家十五代家元に伺う
道具でつむぐ茶の湯のこころ
茶道具は、「展示ケースに並ぶ美術品とは一線を画す」と猶有斎宗匠は語ります。言葉が示すとおり、茶道具はあくまでもお茶会で使うことに意味があるもの。加えて、「一つ一つの道具はそれ自体が美術品、工芸品としての価値があるものですが、茶席で他の道具と取り合わせることでより互いの良さが引き出されるのです」とも。
道具の中でも、歴史を経てきたものには由緒や由来があり、背景に秘められた物語も茶会の見どころの一つとなります。どのような場で誰を招いた際に使われたか……。ささやかなエピソードも積み重なることで道具に深みが増し、茶会での話題になります。
一方、この度の千松会で展観される道具は、まっさらな新作揃い。猶有斎宗匠は「道具を手にした方々が使っていくなかで、その方なりに道具と向き合い、物語をつむいでくださることでしょう」と結びます。
千 宗左(せん・そうさ)
1970年生まれ。表千家十五代家元。同志社大学芸術学博士。同志社大学・英国バッキンガム大学卒業。1998年に大徳寺管長福富雪底老師より猶有斎の斎号を授かり得度し、2018年2月28日に家元を襲名。(一財)不審菴理事長、(一社)表千家同門会会長。
千松会で出合う、
十五代 家元作の“もてなしの美”
「掛物は一期一会の場で
亭主の心持ちを代弁します」
この度の千松会のために、千家の「千」と松坂屋の「松」の文字を据えた「芽松千年歓(がしょうせんねんのよろこび)」という言葉をつむいだ猶有斎宗匠。
「千利休の茶の湯について記された『南方録』に“掛物ほど第一の道具はなし”という言葉があるように、掛物は道具の取り合わせの中心。茶会の趣旨や季節感をはじめ、亭主の心持ちを代弁する存在」だと言います。
表具は一文字に千家桐、中回しに松竹梅があしらわれています。吉祥の裂が寿ぎを添え、本紙の言葉から輝かしい未来への扉が開くように感じられます。
猶有斎筆 一行 芽松千年歓 好表具(奥村吉兵衛)
「互いの好みを心得た合作は
今では阿吽の呼吸で仕上げられます」
「父との画賛は20年前に『宗員』の名を継いで以来、こうした展覧会をはじめお正月の干支の画賛など、事あるごとに合作をしてきました。そのため、自分が描いた絵に父がどのような賛を入れるかなど、お互いに好きなテーマを十分に心得ています」
こうして、阿吽の呼吸で制作された画賛が、今展では2点出品されます。いずれの作品も季節を問わず、どんな席であっても茶の湯の精神を語る存在となることでしょう。
而妙斎筆 茶碗ノ画 猶有斎賛 好日 好表具(奥村吉兵衛)
「竹そのものが放つ
自然の表情を愛でてください」
先代の竹細工・柄杓師の黒田正玄氏より茶杓の手ほどきを受けた猶有斎宗匠。「はじめはうまく削れませんでしたが、自分がイメージした好みの形を目指し、今の茶杓となりました」と語ります。
竹という自然の素材をそのまま用いる茶杓は、形は同じであっても微妙な色の違いや節の表情が異なり、そこに茶杓を鑑賞する面白さが。千松会に出品された茶杓は3本。それぞれの景色を、ぜひその目で堪能してください。
猶有斎作 茶杓 銘 敬義
家元の“好みもの”を手がける千家十職
わび茶の大成者として知られる千利休は、茶碗や釜などに対する独自の審美眼を“好み”と称し、自らの精神性を茶道具に投影しました。歴代家元は、流祖である利休居士の茶風を残すべく、職方を指導して“利休好み”の作品を制作できる人を重用。家元の好みの道具を代々制作できる特別な職方は「職家(しょっか)」と呼ばれました。
「歴代の千家と職家は、長い月日を重ね家同士の繋がりを築いてきました。毎月1日には、家元の茶室に集い一服の茶を供にします。こうした時間を過ごすなかで、自然とお道具についても私の好みなどを感じ取ってくださるのだと思います」と猶有斎宗匠。
伝統的な利休形を礎に“今”という時代の嗜好や利便性など、新たな息吹を創意工夫しながら吹き込んだ“好みもの”をご覧ください。
千松会で出合う、千家十職の名品
名古屋会場
会場 松坂屋名古屋店 本館8階美術画廊
会期 令和4年(2022年) 5月11日(水)~ 5月17日(火)
住所 愛知県名古屋市中区栄 3-16-1
電話 052-251-1111 (代表)
福岡会場
会場 大丸福岡天神店 本館6階アートギャラリー
会期 令和4年(2022年) 5月25日(水)~5月 31日(火)
住所 福岡県福岡市中央区天神1-4-1
電話 092-712-8181 (代表)
取材・構成・文/樺澤貴子
提供:大丸松坂屋百貨店