修造画報

山中伸弥さん×松岡修造さん、京都と東京でのオンライン対談が実現!

松岡さん

対談開始前は緊張していたという松岡さん。いざ始まってみれば、いつもと変わらぬ“熱さ”で、身振り手振りも交えつつ、次々に質問を繰り出していました。

このウイルスはずる賢い。抑え込めるかは人間次第

松岡 日本は東北の大震災をはじめ、近年、多くの自然災害に見舞われていますが、今回のウイルスは何の災害に分類されるのでしょうか。

山中 うーん、僕はこれもある種の自然災害だと思います。おそらくは自然に変異して生まれたウイルスですので。ただ、地震や台風による災害と今回の災害では大きな違いがあります。地震や台風のエネルギーは今の科学では抑えることができませんが、ウイルスの勢いは人間が賢く対応すれば、いくらでも抑え込むことができるのです。人と人が接触しなければ、ウイルスは手も足も出なくなりますから。

松岡 確かに、ウイルスを抑え込むために、僕らがやるべきことは明確ですね。では、なぜその明確なこと、つまり家にいることを日本人全員が徹底できないのでしょうか。

山中 このウイルスには、多くのかた、特に若い人のほとんどは感染しても重症化しないという特徴があります。自分も感染したらひどい目に遭うと思えば、誰でも我慢すると思うのですが、感染しても大したことはないと思うと、「週末にサーフィンをするくらいはいいんじゃないか」と考えてしまう。このように人を油断させる点が、このウイルスのずる賢いところなんです。

この感染症は周りの人をリスクにさらします。自分をかわいがってくれているおじいさんやおばあさんを大きなリスクにさらし、死に至らしめる可能性もある。だから家にいて感染を防いでほしい。この考え方は今はだいぶ浸透してきたように思いますが、僕たちはこれからも繰り返し伝えていくべきだと考えています。

ただ、これはいうは易しで、若い人には酷なことだとわかっています。自分の20代を思い返してみても、遊びに行きたいと思うのは当然です。しかも、その楽しいことを自分のためではなく、周りの人のために我慢してくれとお願いしているわけですから、しないからといって、強くは責められません。でも、だからこそ、丁寧に説明をして理解してもらうことが必要だと思っています。

松岡 今、ずる賢いと形容されたこのウイルス、ひと言で表すなら、先生は何と表現されますか。

山中 これは……突然現れた、世界を変えるウイルスですね。

松岡 世界を変えてしまいますか?

山中 変えてしまうでしょうね。2019年の12月末に、中国の武漢で今までにない肺炎が発生したとの報道がありましたが、僕も含めて大半の人は、2月中旬頃までは「世界的に見れば大したことはないだろう」と考えていたと思います。僕も2月16日はのほほんと京都マラソンに出ていました。ところが、それからわずか1〜2か月で世界が激変してしまった。

この先1年くらいして、たくさんのかたが感染して集団免疫ができるか、非常にいいワクチンもしくは治療薬ができることによって、ある程度は収まってくるかもしれません。でも、2020年2月までの世界とは違う世界になると思います。

山中さん

教授室で、スクリーンに映る松岡さんの言葉にじっと聴き入る山中さん。

東京2020大会開催には超人的な努力が必要です

松岡 先のことを考えたとき、僕がとても心配なことの1つが、1年後に延期された東京2020大会が本当に開催できるのか、ということです。先生はどう思われますか。

山中 1年延期の発表を聞いたとき、僕はホスト国である日本と国際オリンピック委員会は世界に対して大変な約束をしたなと思いました。まさにパンデミック(世界的大流行)ですから、仮に日本の状況がよくなっても、世界的に解決できないかぎり、オリンピックの開催は難しいでしょう。具体的にいうと、来年2021年7月開催ということは1月頃には収束していないと、選手も組織委員会も準備が間に合いません。ということは、残されている時間は1年もない。

松岡 現実的に見ると、確かにそうですね。

山中 ですから、2021年7月のオリンピック開催は、世界中がベストを尽くさないと達成できないほど難しい課題だと思います。

ただ、選手のみなさんが大会に向けて超人的な努力をされていることを思えば、なんとしても年内で抑え込みたいところですよね。そのためには、僕たち科学者の責任も重いのですが、この事態を1日も早く終わらせるため、PCR検査や抗体検査のスピードを100倍以上に速める必要があります。

それから、普通なら2〜3年は必ずかかるワクチンや治療薬をなんとか1年くらいで開発する。この2つが不可欠です。本当に今、人類が試されているといいますか、そんなふうに思います。

松岡 人類が試されている。

山中 はい。世界中の人がオリンピック選手と同じくらいの超人的な努力をする必要があります。非常に高い目標ではありますが、逆にいえば、それだけの努力ができたら開催できる可能性はありますから、諦めずに頑張るべきだと思っています。

松岡 ありがとうございます! 僕はこれまで東京2020大会についてポジティブな話しかしてきませんでした。なので、この状況でもあえて前向きなことをいいますと、東京2020大会はこれまででいちばん、世界が一致団結する大会になると思っています。開催されたあかつきには、日本が中心になって世界が元気になったことを祝う祭典になると思うんです。

山中 僕も今回の東京オリンピック・パラリンピックは、本当に歴史に残る祭典になると思います。いろいろな意味で人類が力を合わせて実現させる大会になるわけですから。出場される選手は大変だと思うのですが、ぜひモチベーションとハードトレーニングを維持していただいて、世界に勇姿を見せていただきたいなと思っています。

松岡 先生の言葉を伺って、勇気が湧いてきました。

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