美容・健康

副作用がほとんどない薬。誰もが望むことが、少しずつ実現されてきています

未来の医療 進歩する生命科学や医療技術。わたしたちはどんな医療のある未来を生きるのでしょうか。「未来を創る専門家」から、最新の研究について伺います。前回の記事はこちら>>

薬を患部に選択的に届けることで治療効果をさらに上げる

患部だけに薬が届き、副作用がほとんどない……。誰もが薬に望むことが、少しずつ実現されてきています。

がんに集中する治療薬を開発中の、凜研究所 研究担当取締役、松村保広さんに、薬物を患部に効果的に届ける方法の進展について聞きました。

〔未来を創ろうとしている人〕松村保広(まつむら やすひろ)さん

松村保広さん

凜研究所 研究担当取締役
国立がん研究センター研究所 客員研究員
川崎市ナノ医療イノベーションセンター ラボ長
1981年熊本大学医学部卒業後、同学部外科研修医、89年から米国マウントサイナイメディカルセンター腫瘍内科、英国オックスフォード大学病理学教室で研究。国立がんセンター(現・国立がん研究センター)中央病院医長等を経て2002年先端医療開発センター新薬開発分野・分野長、20年から現職。日本DDS学会理事長、日本癌学会評議員。世界的な論文引用栄誉賞など受賞多数。

より患部に届きやすい性質を薬に付与する

目が乾燥するときには目薬をさす、アレルギーで鼻が詰まるときには点鼻薬をさす、腰痛で腰に湿布を貼る。このように症状が出ている部分に直接使える薬であれば、患部での効果を高め、副作用を減らせます。

一方で、内臓の病気などでは、病変部分に薬を直接効かせることができません。

例えば、一般的な頭痛で鎮痛剤を飲んだときには、胃でその錠剤が溶け、小腸で吸収され、肝臓で代謝されたうえで、薬の有効成分の一部が神経に働き、頭痛をやわらげます(下の図参照)。

薬物送達システムの仕組み(例)薬の吸収から排せつまで

薬物送達システムの仕組み

飲み薬は苦みを感じないように薬の成分を包み、吸収や代謝がうまくいくように剤形や添加物が設計されているものの、それでも薬が通過する胃や腸、肝臓、腎臓などに副作用が出る可能性があります。

例えば、点滴で体内に入れる抗がん剤はどうでしょう。

がん組織、あるいは浮遊しているがん細胞以外の部位にも抗がん剤が届き、さまざまな副作用が出ることが知られています。

患部だけに届けて効果を上げ、ほかの部位には影響を与えない、それは人類が昔から薬に望んできたことです。人体の生理学、また病気の性質への理解が進み、薬に関する科学的知見が積み重ねられて、その希望が少しずつ叶えられています。

このように薬に患部に届きやすい性質を持たせ、効果を高めて、副作用を減らす仕組みは、「薬物送達システム(DDS/ドラッグ・デリバリー・システム)」と呼ばれています。日本DDS学会理事長を務める松村さんによると、DDSの概念は非常に広く、また、さまざまな種類があるそうです(下のコラム参照)

【コラム】さまざまな薬物送達システム

〔薬に施されている工夫〕薬の体内への入れ方を変え、利便性を高めて、効果を上げ、副作用を減らす

薬物送達システムには、本文で述べたような病巣に選択的に薬を届ける「標的指向」のほかに、体内での薬の放出をコントロールする「放出制御」、薬の吸収を工夫する「吸収制御」などがあります。

例えば、乳がんや子宮内膜症などに使われる女性ホルモン薬であるリュープロレリンは、「放出制御」型の薬物送達システムを用いた代表的な薬といわれています。薬の有効成分をごく小さなカプセルに入れることで効き目の出方をゆっくりにし、1回の注射で1~3か月程度効果が出るように設計されたもので、それによって頻回の注射やその副作用を避けられるようになりました。

飲み薬や注射薬として使われていた薬の成分を、塗り薬や皮膚に貼るパッチ薬として皮膚から吸収するように変える「吸収制御」を行えば、経口摂取が難しい患者にも適応できます。女性ホルモン薬の一部などで、このような剤形の変更が行われ、毎日薬を飲む必要がなくなりました。結果的に、薬の飲み忘れによる症状悪化の心配も少なくなりました。

緩和ケアなどで使われる医療用麻薬の一部も皮膚からゆっくり吸収させることで副作用を減らす工夫がされています。

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